管制の現場では最先端技術が活躍中だが…

管制官の業務は複雑化しています。手元には便名や経路など情報を集約した運航票、その隣にはレーダー画面、その上には気象情報、どこを見ても装置が並んでいます。もちろん、外を見れば何機もの飛行機……そのなかで情報収集を行なわなければなりません。

無線の性質上、飛行機に対しては、1機に1度ずつしか指示できません。複数の飛行機が同時に移動(または飛行)しているのに、そのなかの1機を選んで指示することしかできないのです。これを「アナログすぎる」と評する世間の論調も増えたように思います。

今の世の中、管制官という職務も例外なくデジタル技術の活用が要請されているところであり、その先にしか、社会が目指している未来のかたちに辿り着けないのだろうと思います。DX(デジタルトランスフォーメーション)、あるいはAI(人工知能)の導入への、まさに過渡期にあるといえるのかもしれません。

本書でも触れているように、現在も航空管制の現場では、レーダー、TCAS、ADS-B、マルチラテレーション、それらの情報にもとづく警戒判定システムなど、最先端のテクノロジーが活躍しています。しかし、AIが管制官の判断を代替する世界はまだ先になりそうです。

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管制官が飛行機の優先順位をつける方法

たとえば、レーダーによる進入管制では、複数の飛行機に優先順位をつけなければならない局面に遭遇することがあります。上空で待機するどの飛行機から着陸させるか。原則では、もっとも近い飛行機に優先権があります。システムは、レーダーで測定した距離から、最優先すべき飛行機を教えてくれ、管制官に推奨する順位づけまで提示してくれます。

しかし、安全と効率を考えたとき、ただ距離が近い機を最優先すればよいのかというと、かならずしもそうではありません。

ターミナルレーダー管制では、空港の近くに来た飛行機を効率よく滑走路に誘導するために、上空で適切な間隔を保ちながら一列に並べます。このとき、「S字」や「J字」のような流れをつくるのですが、システムはこの“流れ”をつくるための指示の回数や、上空の風向きにより方向を変えると、減速または増速することまでは対応できていません。

「今、もっとも近くにいる機を優先する」という原則は大切です。しかし、それを完全に守ろうとすると、どうしてもいびつなかたちになってしまいます。今のシステムの答えは、あくまで計算上で出した数値に対する優先順位です。まだそこまでの“管制の技術”を体現したものにはなっていない、というのが現状です。