既存の知識にとらわれず、日常の問題から着想を得る
寺田さんは高校も大学も出ていません。しかも、引っ越し業に関してはまったくの素人でした。
しかし、こうした経歴であったからこそ、既存の知識にとらわれずに、自らの日常感覚を大変有効に生かして考えることができた、と言えるのかもしれません。
さて、わたしも含め、男性は寺田さんから何を学ぶべきなのでしょうか。
たとえば、先ほど触れた清潔な靴下着用のサービス「クリーンソックスサービス」にしても、それまで完全な男性社会であった引っ越し業界では、土足に何の問題も感じていなかった。
そこへ寺田さんという女性が登場し、また、利用者に単身女性も増えてきたこともあって、「何で真っ新な新居に土足で上がるのかしら。汚れるのはいい気持ちはしないし、床掃除の手間がまた増える」という問題が顕在化する。
そこで「じゃあ、きれいな靴下をはいて作業しましょうよ」と寺田さんは考える。
こうして、そこにある問題を発見し、利用者の「あったらいいな〜」に共感し、形になったわけです。男性なら、「引っ越し作業で新居が汚れても、そんなこと、しょうがないだろ」で終わっていたはずです。
素直な願望で「消費を増やす発想のできる人」になれるか
わたしは常々、女性には男性がかなわない、独特の柔軟な発想力があると感じています。
また、「こうなりたい」「こんなものが欲しい」「こういうふうにラクをしたい」といった、素直な願望を抱くことができます。こうした特性があるからこそ、消費社会の牽引役として、男性よりも重宝されるわけです。
男性はどうしてもものの見方、考え方が硬直しがちです。多かれ少なかれ、男性は従来型の男性中心社会の発想が染みついています。
また、過去の知識の枠組みや前例に縛られがちです。だからこそ、女性の発想に触れ、刺激をもらうことも、ときに必要だとわたしは思うのです。
ひとつ言えることは、男性社会的発想は、これからの時代、あまり役に立たなくなる可能性が高いのではないかということです。
少なくとも消費不足を解消するための消費を刺激するようなアイデアは、女性の感性と発想力なくしては、発展は望めないと言えるくらいです。
昔から、男性は生産する人、女性は消費する人だったわけですが、いまは消費が足りなくて生産があまっているのですから、生産性を上げるより、消費を増やす発想のできる人のほうが役に立つのです。
旧態依然の男性的発想に凝り固まっている組織(こういう組織は生産性を上げることばかり考えて、女性の消費者の視点をあまりもち合わせていません)は、衰退を免れないと考えるのが妥当でしょう。