「あったらいいな〜」をどんどん形にしやすい時代

しかし、いまはAIの時代。人工知能はわたしたちが考える以上に、さまざまなことに対応し、人の発想を実現していきます。

そういう意味で、かつては技術者に相談しても、「そんなの無理」と却下されていたような「あったらいいな〜」を、どんどん形にしやすい時代になりつつあるとも言えるのです。言い換えると、発想と技術のギャップが相当に縮まってきているのです。

「まずはのび太が考えて、あとはドラえもんにお任せ」にならって、「まずは人間が考えて、あとはAIにお任せ」。そのくらいの感覚で、発想を楽しめばいいとわたしは思います。

スティーブ・ジョブズという経営者は、こういうのび太型経営者の第1号と言えるかもしれません。

顧客目線の「あったらいいな~」で成功したアート引越センター

実在の人物のなかで、「あったらいいな〜」を次々と実現し、事業を拡大してきた方をひとり挙げるとすると、アート引越センター創業者の寺田千代乃さんが真っ先に浮かびます。

寺田さんは20代の初めに運輸業を営むご主人と結婚されました。その運輸会社を母体として、1970年代半ばに、わが国の専業の引っ越し取り扱いサービス業の第1号であるアート引越センターを設立します。

このとき寺田さんの発想のもとになったのが、折しもオイルショックで仕事が激減していた状況下で、「自分たちにある車と運輸業の人材を活用してできることは何か?」ということでした。

実際、業務を始めてみると、寺田さんには引っ越し業がとても面白かったのだそうです。

アート引越センターでは、さまざまなお客さん目線のサービスを提案し続けてきました。

たとえば、利用者の年齢や生活形態ごとに特化した引っ越しパック、新居に運び入れる家具のクリーニング、それまで業者が土足で新居に入っていたのを改め、靴下を着用して行う作業スタイル。

こうしたものをはじめ、じつに細やかな発想で、お客さんが「こんな引っ越し業者さんだったらいいな」「こんなサービスがあったら助かるな」と思うものを次々に実現してきました。

それはまさに引っ越し取り扱いサービス業のフロンティアと言えるものでした。

段ボールを持つ運送会社の従業員
写真=iStock.com/koumaru
※写真はイメージです