犯罪被害の支援制度をわざわざ作った理由

人は不安が強くなるとお金を使わないし、子どももつくらなくなる。不安を必要以上にあおった結果、経済がしぼんでしまって公助も難しくなる。これが今の日本の悪循環なんです。この悪循環を好転させるには、不安を取り除いて、安心できるメッセージを打ち出していく必要があると思っています。

明石市ではこうしたメッセージを発信した結果、隣接の市町村はもちろん、遠方からもたくさん子育て世帯が引っ越してくるようになりました。中核市の中では人口増加率が1位になり、合計特殊出生率も国の1.33(直近5年間の平均)を大きく上回る1.63になりました。「明石市だから子どもを産む決心ができました」「明石市だから2人目を産めました」という言葉をかけてもらうこともたくさんありました。「明石市だったら、何かあっても面倒を見る」というメッセージを伝えているから、みんなが安心して暮らせているし、お金の不安を感じずに前向きに暮らすことができていると思います。

わかりやすい例が、犯罪被害者支援条例(明石市犯罪被害者等の権利及び支援に関する条例)の制定です。市民が犯罪被害に遭ったとき、明石市が加害者に代わって300万円まで救済を行うという制度を作ったのですが、任期中の申請は1件。行政の施策としてはさほどお金はかかっていない。

これは「犯罪被害者になる確率は、そこまで高くない」ということでもあるのですが、それでも「犯罪に巻き込まれたらどうしよう」という不安はある。そこで「犯罪に遭っても明石市は見捨てない」というメッセージを発信することで市民は安心して暮らすことができています。

つまり、お金に対する不安の中には「思い込み」や「漠然とした不安」という要素が多分に含まれていると思います。逆に安心感があれば、お金に対する不安というのはそこまで大きくならないし、それがある種の幻想にすぎないことにも気づけるはずです。

泉氏自ら施策をアピールする機会が多かったことも、安心感につながっていたかもしれない。