前明石市長の泉房穂さんは、市長在任中に「18歳まで医療費無料化」などの独自の子育て支援策を実施してきた。どうやって政策を実現させてきたのか。泉さんの著書『さらば! 忖度社会 崖っぷちニッポン改造論』(宝島社)からお送りする――。
ヘルスケアと電卓
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「国と対等」だから徹底的にやり合う

私は、国と地方は完全に対等だと思っています。国とケンカをして負けたことがほとんどありません。なぜ負けないか。実際に対等だからです。

たとえば、2014年に地方創生交付金の制度がスタートした時のこと。当時の担当大臣は石破茂さんでしたが、石破さんは「熱意と創意工夫のある自治体を、国は全力で支える」とメディアで話していました。ところが実態は、総務省が「こうやって使ってくれ」と使い方の中身にまで口を出してきた。

たとえば、「商店街など地域振興のために、こういうところに配ってくれ」と指示してくる。私は、ひとり親家庭や障害を持っている人たちにも配りたいからと、社会保障のほうにも使うことにしたのですが、そこに赤字を入れてきて「従ってもらわなければ困る」と言ってきた。

「話が違うやないか。おまえんとこの大臣が、地方の創意工夫で好きに使え言うとるやないか!」と、こっちはケンカも辞さずで反論し、自分たちのやり方を貫きました。法律上は対等である以上、負けるはずはないとわかっていました。「そうやって強制する根拠を示せ」と言えば、示せない以上、国は折れるしかないのです。

現場を知らない無茶苦茶な方針が出ることも

あるいは、根拠を示せないどころか、むしろ中央省庁の決定が完全な誤りということもあります。しかし、彼らは自分たちが間違っていたということはなかなか認めようとしません。そんな時は直談判で乗り込んでいくに限るのです。

ある時は、厚労省がひどい方針を出したことがありました。それは、2015年に実施された介護保険制度改定に関するもので、一定以上の所得のある高齢者の介護保険サービスの自己負担割合を引き上げるという方針から出てきたものでした。

もしも高齢者が自らの資産が1000万円以下であることを証明できたならばこれまでの1割負担を継続するが、それが証明できなければ、住民税非課税世帯であっても、負担割合を上げるという無茶苦茶なもの。

つまり、「収入はなくても、ある程度の資産がある高齢者は自分で負担してください」という趣旨のものでしたが、それに当たらない場合は、そのことを自ら証明すべきという方針を打ち出してきたのです。