「中核市の明石市には権限がない」の一点張り
もう少し前向きな展開につながったエピソードもご紹介しましょう。
放課後の子どもの大事な「居場所」である学童保育。都市部では保育園のように定員オーバーになるところも多く、待機児童対策が必要なことは言うまでもありませんが、一方で、私は学童保育で働く大人にはきちんとした資格が必要だという考えを持っています。
明石市長時代、学童保育で働く人の半数以上は教員免許のある人に来てもらっていました。子どもにきちんと寄り添って働いてもらいたいと思う以上、誰でもいいという話にはならないのです。さらには、複数の大人の目が必要なので、それなりの人員を配置すべき、というのも私の持論でした。
一方、待機児童問題や人手不足が深刻な状況もあり、全国市長会はむしろ、「資格なんていらない。地域の事情に応じて定員はオーバーしても仕方がない、場合によっては一人で大勢の子どもを見させればいい」というスタンスでした。
私は、それは絶対におかしい、子どもには複数の大人の目が必要であり、働く人の専門性も必要だと考えて、「それならば放課後児童支援員の資格認定研修を明石市にやらせてほしい」と厚労省に直談判した。きちんとした人材を明石市が率先して育成して、学童保育の現場で働いてもらおうと考えたのです。
すると、厚労省が「資格研修ができるのは、都道府県と政令指定都市までだから、中核市である明石市が研修を実施することはできません」と言ってきました。政令指定都市というのは、都道府県から多分野の行政サービス権限が委譲された人口50万人以上の都市のことで、中核市はそれよりも規模が小さく、人口20万人以上の都市で、都道府県の事務権限の一部が委譲されています。
地方分権はまだまだ実現できていない
ちなみに、かつては中核市の条件は人口30万人以上と決められており、人口が29万人台の明石市は中核市になれずにいましたが、2014年の地方自治法改正(2015年施行)によって中核都市の条件が20万人以上に緩和され、明石市も移行準備期間を経て2018年には中核市になっていました。
加えて、私が市長に就任した2年後の2013年から市の人口は増加に転じ、2020年の国勢調査(10月1日時点)で初めて30万人を突破していましたから、結果的には、条件が緩和されなかったとしても中核市に移行できるだけの規模にまで成長していたのです。
一方で、中核市になってもなお、政令指定都市にならなければ実施できないことがさまざまにありました。明石市は、独自に人材育成などに取り組んでいくためにも、政令指定都市の人口条件を50万人から30万人に引き下げるよう、地方自治法のさらなる改正を国に求めました。残念なことに、その改正は実現できていないままですが……。
地方分権を進めるためにも、政令指定都市の条件緩和の実現は、今後の重要課題の一つだと思っています。
いずれにせよ、当時中核市に移行したばかりの明石市には、放課後児童支援員の資格認定研修を実施することはできない、というのが厚労省の判断だったのです。
私は当然ながらブチ切れました。