※本稿は、泉房穂『さらば! 忖度社会 崖っぷちニッポン改造論』(宝島社)の一部を再編集したものです。
昔の民放は政権批判ができていた
NHKと民放それぞれの特徴を踏まえたうえで考えてみると、NHKの体質には二つのポイントがあると感じています。
一つ目は、NHKは国民の受信料で成り立っているので、スポンサー企業などへの忖度を考える必要がないということ。もうひとつが、その受信料制度を決めているのは政府ですから、受信料を払ってくれる国民に対する使命に加えて、政府にも配慮せざるを得ないということ。
政権批判に及び腰というのは入社当時から感じていましたが、近年、政府への忖度がどんどんひどくなってきています。いまや、国民に尽くすという大義はどんどん弱まり、政府への忖度だけが強まっているように感じます。
一方の民放は、視聴率オンリーですから、今も昔も、見ているのはあくまでスポンサー企業の反応です。ですから、スポンサーさえOKであれば、ある程度のタブーも破ることができるし、政権批判もできました。
ところが、2012年に発足した第二次安倍晋三政権の時代から、政権によるマスコミ介入が露骨になっていきます。安倍首相(当時)がテレビ局や新聞社のトップを抑え、菅義偉官房長官(当時)がコメンテーターなどの有識者をしっかり抑え込み、官邸官僚が現場を締め上げる。
さらに、2015年から16年にかけて、高市早苗総務大臣(当時)が「(偏った番組を流すような放送局には)電波停止も辞さない」と放送法を盾に露骨なことを言い出して、マスコミの忖度が一気に進みました。
「偏向報道は停波」でマスコミが萎縮
放送法第4条では、放送事業者は「政治的に公平であること」と定められていますが、この公平性については、一つの番組ではなく事業者の番組全体をみて判断する、というのが従来の政府の見解・解釈でした。
ところが、当時の高市大臣は、突如「一つの番組でも、極端な場合は政治的公平を確保しているとは認められない」と答弁して第4条の解釈を変更してきたのです。2023年に、総務省は「番組全体で判断する」と従来の解釈に戻した答弁をしていますが、政権の意向次第で公平性の解釈は変え得るとの印象を残しました。