米CNBCによると、この状況は日本に限ったものではないようだ。アメリカなど先進国全般に、同様の傾向が見られる。金メダル獲得に対する報奨金は、韓国4万5000ドル、アメリカ3万8000ドル、ポーランド2万5000ドル、ドイツ2万2000ドル、オーストラリア1万3000ドルで、いずれも日本円換算で約190万~670万円の範囲に留まる。

アメリカの選手が金を獲得したとして、4年間で割ると、1年あたり日本円で144万円だ。金メダリストになっても、生活費としてはかなり厳しい。

例外的に、香港とシンガポールは高額の報奨金を用意しており、それぞれ76万8000ドル(約1億1400万円)と74万5000ドル(約1億1100万円)を支給する。

だが、アメリカなど多くの国のオリンピック選手の場合、報奨金だけで生活することは困難だ。米NBCフィラデルフィアは、「オリンピックのアスリートたちは、その絶頂期においてさえ、収入の確保に苦労することが多い。賞金や給付金、スポンサーシップやクラウドファンディングに頼って、夢を支えているのだ」と指摘する。

なお、報奨金の制度はさまざまだ。オリンピックに出場した時点で一定の金額を支給する国もあれば、ノルウェーのように、メダル獲得に対する直接的な報奨金を用意していない国もある。

「経済的に不安定」6割の選手が悩む

このように、オリンピック選手の多くは、経済的に不安定な中で鍛錬を積んでいる。だが、副業に就きたくとも、練習や合宿のほかにフルタイムの仕事に就くことは時間的にほぼ不可能だ。

全米日刊紙のUSAトゥデイによると、500人のエリート選手たちを対象とした国際的な調査では、自分は経済的に安定していないと回答した選手が約6割を占めた。

2004年のアテネ五輪で陸上競技・女子100メートル銀メダルに輝いたローリン・ウィリアムズ元選手(40)は、米ビジネス・インサイダーの取材に対し、「テレビに出ている選手を見ると、全てのオリンピック選手が有名で、メダルを取ればお金持ちになると思うかもしれません。それは全くの誤解です」と述べている。

選手たちは、トレーニング費用やコーチへの報酬、マッサージセラピストや栄養士への支払いなど、多くの経費を負担しなければならない。練習のための諸経費として、収入の半分ほどがすぐに消えてゆく、とウィリアムズ選手は言う。

多くの選手の生活レベルは、貧困とみなされる水準にある。アルジャジーラによると、アメリカの多くのオリンピック選手の年間収入は、1万5000ドル(約220万円)未満だ。連邦政府が発表する「貧困線」を下回る水準であり、これは、選手の所得が、国民の中央値のさらに半分を割り込む状態であることを意味する。

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すきま時間に工場でバイトをする選手も

生活費とトレーニング費用を賄うため、練習時間が削られるのを承知で、やむを得ず仕事を掛け持ちする選手もいる。

今年のパラリンピック大会・男子テコンドーに出場するアメリカのエバン・メデル選手(27)は、ビジネス面からスポーツを報じるウェブメディア「スポーティコ」の取材に、「工場に駆けつけて作業をすることもあります。そうして収入を補っているのです」と二足のわらじ生活を打ち明けた。