不変のデザインの背景

もちろん、密な配列(粒同士の間隔が小さい)である方が、プチプチの性能はよくなります。

ここで、有効面積率なる指標を考えます。

面積全体に占めるくうき層の面積のパーセントです。

粒がなければゼロパーセントです。100パーセントが理想ですが現実には不可能なことを示しましょう。

プチプチの粒が正三角形の格子上に配列された場合、粒の直径をD、粒同士の間隙をdとすると

有効面積率=[ π×DΛ2÷4÷2]÷[(D+d)×(D+d)×√3÷2÷2]÷100
d→0のとき 有効面積率→π÷2÷√3÷100
∴有効面積率→90.69 単位は%

どうしても最低1割は「無駄な部分」(「融着部分」と呼んでいます)が生じる計算です。

この限界を乗り越えるには、後の「プチキューブ」の開発を待たねばなりませんでした。

以上みてきたようにプチプチは、「ポリエチレン(広くは熱可塑性樹脂)の物性を最大限に活かして被包物を保護する資材」というその存在意義から導かれる通り、当初から現在に至るまでほぼ不変のデザインで、長くご愛顧いただいているのです。

プチプチという名称がなかったときは…

父=川上 聰が創業した気泡緩衝材メーカーである川上産業に転職した肇(筆者)は、知人に対して自分の新しい仕事を説明することに嫌気がさしていました。

毎度同じ口上をくり返さねばならなかったからです。

すなわち「クッキーのカンカン(金属缶のこと)を開けると、一番上に空気の粒々が封入されたプラスチックのシートが入ってるよね。

指で押すとぷちぷちとつぶれる緩衝材。あれを作る会社に転職したんです」と。

なぜ、毎回クッキーからスタートしなければならないのか(いきなり指でつぶす話をしても伝わらない)、そしてなぜ長い文章が必要になるのか、釈然としないものがあったのです。

いま改めて考えてみれば、これは当たり前で、世の中にないものを発明したのですから、それを作る仕事も、まだ概念として認知さないわけです。

ひと言で説明できないのは無理もないし、また新しい分野を切り拓いたという誇らしい事態の裏返しと考えることもできたかもしれません。

しかし当時の肇は、そう考えませんでした。

(ああ、めんどう。自動車のエンジンを作る仕事、とか、美味しいケーキを流通させる仕事、とか短い言葉で表せないものか)と「軽く」悩んでいたわけです。