この世に存在しない「架空の都市」の地図を作り続けている人がいる。「空想地図作家」として活動している今和泉隆行さんは、7歳の頃から架空のバス路線図を作り始め、いまでも架空の都市である「中村(なごむる)市」の空想地図を作り続けている。「空想地図作家」という不思議な仕事をどのように成り立たせているのか。文筆家の佐々木ののかさんが聞いた――。(前編/全2回)

“ありそうな場所”を描く「空想地図」

――今和泉さんはさまざまなメディアや美術館などで、制作されている「空想地図」を紹介されています。改めて、空想地図とは何なのか教えていただけますか?

【今和泉隆行】まったく実在しない架空の場所を描いている地図です。ただ、やみくもに描いているのではなくて、道路のかたちや密度から、その町がどのような町で、どんな人がどれだけ住んでいるのかを想像しながら描いています。地図上に「ありそう」なところがポイントですね。

――地図上で「ありそうなもの」とは、具体的にどのようなものですか?

【今和泉】たとえば、首都圏であれば駅の近くがいちばん賑わっていますが、城下町だと駅から離れた古くからの中心地が人を集める場合もあり、近年の地方都市だとバイパスやロードサイドが賑わいます。道路が密になるところは、沿道に建物や行き交う人が多いところなので、都市の賑わいは道路模様で表現できます。また、その町に住んでいる人が必要としそうな商業施設やチェーン店を想像し、配置していきます。

あと、道路が曲がりくねっているところは、道路をまっすぐ通せないくらい険しい地形だということなので、必然的に標高が高くなります。

架空の都市「中村市」の空想地図
画像=筆者提供
架空の都市「中村市」の空想地図

――逆に、地図上に「なさそうなもの」ってありますか? 市役所の隣にドーム球場はあまりないんじゃないかと思うのですが。

【今和泉】そう言いたいところですが、私が住んでいる文京区には、東京ドームの隣に文京シビックセンターがあるんです。少し前の横浜市役所の隣にも横浜スタジアムが。起伏のある斜面より平地のほうが住宅地になりやすい、と言おうとしたんですけど、そうでもない場所も存在しますし、地図上に絶対にない法則を導き出すのは意外と難しいんですよね。

強いて言うなら、都会の中心には畑ができないとは言えるかもしれません。池袋ももともとは畑でしたが、人が集まってくると建物をどんどん建てざるを得なくなってきますから。

1896~1909年までの池袋と、2007~09年までの池袋との対比地図(「今昔マップ on the web」より)