交通系電子マネーの絶対王者Suica
勢いに乗る「タッチ決済乗車」だが、あくまで、該当するクレジットカードを保有することが大前提となる。クレジットカードには、事前審査があり、給与所得や金融資産の有無や延滞履歴などでクレジットカード審査が通らない人や、学生や子供など対象外で持てない人も存在することになるため、公共交通機関において「タッチ決済乗車」だけになることはない。しかしながら、その利便性から、SuicaやICOCAなど交通系電子マネーを押しのけ、短期間で主役の座を奪う可能性は十分にあろう。
こうした動きに対抗するかのようにSuicaを擁するJR東日本グループも矢継ぎ早に新たなる施策を展開している。2024年5月には、デジタル金融サービス「JRE BANK」を開始した。JR東日本では、銀行を持つことでSuicaやJREポイントの魅力を高め、グループ全体の収益の多様化と拡大を目指している。
また、2024年6月には、JR東日本は、「Suicaアプリ(仮称)」を2028年度に投入すると発表している。「Suicaアプリ」では、鉄道・交通、移動と一体のチケットサービス、金融・決済、生体認証、マイナンバーカード連携、タイミングマーケティング、健康、学び、物流、行政・地域サービスとの連携などを順次盛り込んでいくという。
JR東日本では、Suicaアプリなどによる「Suica経済圏」の拡大により、モバイルSuicaの発行枚数を2022年度末の2030万枚から2027年度には、3500万枚に増やす目標を掲げている。
選択肢が増えるのは悪いことではない
首都圏での公共交通機関利用にあたって、Suicaは絶対王者であり、銀行の設立やアプリの導入により、Suica経済圏の強化を図っているものの、急速に広がりつつあるクレジットカードなどによる「タッチ決済乗車」により、一気に主役の座を奪われてしまう可能性もでてきた。
もっとも、JR東日本にとって、Suicaという名の電子マネーは決済手段の1つに過ぎず、既にあるSuica機能付きのビューカードなど自社ブランドによるクレジットカードをそろえているのも事実だ。今後の展開として、JR東日本自身もこうした自社発行のクレジットカードによる「タッチ決済乗車」を増やすことで、引き続き公共交通機関での決済シェアを維持することも考えられよう。
いずれにせよ、通勤・通学者など、公共交通機関の利用者にとって、交通系電子マネー以外の選択肢が増えることは、決して悪いことではない。