高価な魚介類は流通量の半数が密漁の可能性も

かつて旧築地市場(東京都中央区)では、密漁アワビの流通を食い止めるべく、市場取引を拒否しようという試みが検討された。悪質な密漁が頻発していた宮城県では15年ほど前、被害が数十億円に上ったとみられ、築地の競り人が密漁の疑いがあるアワビを販売したとして、宮城県警に書類送検されたことがあったのだ。

全国的にみると、魚価が高いアワビやナマコ、サザエ、イセエビ、ウナギなどが密漁対象の代表種。種類によっては「国内に流通する量の半分近くが、密漁によるものではないか」と指摘する声もある。

警察や関係組織の取り締まりに対し「いたちごっこ」が続いており、今でも全国各地で密漁は発生している。組織的で悪質・巧妙な不法行為は後を絶たないが、密漁を巡る現状は今、大きく変化している。

筆者提供
密漁が後を絶たないアワビ。漁業法で一般の人が捕ることは禁じられている。

かつては漁師のルール破りが主流

水産庁のまとめによると、都道府県や海上保安庁、警察による2022年の海での関係法令違反による検挙件数(速報値)は、前年比16%増の1527件。2021年まで数年間は減少傾向を示していたが、2022年に再び増加に転じ、比較的高い水準となった。もちろん検挙数は氷山の一角で、その何倍もの密漁が行われている可能性が高いが、それなりの傾向は見て取れる。

2000年代の初めまで、検挙者の圧倒的多数が「漁業者」であった。海や漁業管理ルールを熟知した漁師が、故意に規制を破ったとみられる結果であった。ところが2006年には「漁業者以外」の検挙者が上回るようになり、その後は、漁業者の検挙数が減少する中で、一般の検挙数が増加傾向となっている。2022年には一般の検挙数が実に9割近くを占めた。この逆転現象はなぜ起こったのか。

水産庁は、「世界的な環境保護意識が高まる中で、日本周辺の漁獲量も減少し続けているため、漁業者の資源管理に対するルール遵守の姿勢が浸透してきた結果ではないか」とみる。漁業者とは対照的に、一般の人は魚介の扱いに関する認識が低いことが、検挙数増の要因となっているようだ。