選手にとって、怒られることは期待の表れ

信じられないかもしれませんが、トムコーチが日本語で話す時でも僕は彼の言うことがよく理解できます。おそらく、彼も僕も英語を母語としてきたため、考えることが近いところがあるのではないでしょうか。トムコーチは英語で話すにしろ、日本語で話すにしろ、指示がとても明瞭です。

もちろん怒られることもあります。というよりも、彼は選手によって態度を変えるコーチではありませんし、良くないプレーをすればそれを正すために声を荒らげて叱ることをためらいはしません。

そして、怒られることは選手にとって悪いことではありません。もしコーチが選手に話しかけることをやめてしまったら、それはその選手が期待をされていない証拠だからです。

トムコーチをはじめ、コーチたちが選手たちに対して怒りを表したり、厳しい言葉を投げかけたりするのは、外野からは怖く見えるかもしれませんが、選手の最高の姿を引き出すために、ひいてはチームをより良くするためにあえてそうしているのです。

ですから、コーチが選手に声を荒げてでも何かを伝えてくるのは、重要なコミュニケーションなのです。

「君にコートにいてもらわないと困る」

トムコーチが僕に強い言葉で指示してきたことでよく覚えているのが、ワールドカップ初戦のドイツとの試合のことです。僕は試合の序盤からファウルを吹かれてしまったのですが、僕はそのジャッジに納得がいっていませんでした。

すると、トムコーチとコーリー・ゲインズアソシエイトヘッドコーチが僕を端に引っ張り出して、こう言ったのです。「聞くんだ。われわれは君にコートにいてもらわないと困る」と。そこからは安易なファウルをしてベンチに下がらないといけない事態を避けるように注意をしました。

それ以外にも、トムコーチからは多くの助言をもらっています。ワールドカップ前に股関節を故障した影響もあってか、自信があるはずのスリーポイントシュートの感覚がおかしく、大会に入ると最初の4試合ではほとんど決めることができませんでした。

写真=時事通信フォト
国際強化試合第2戦・日本-韓国。第4クオーター、フリースローを放つジョシュ・ホーキンソン=2024年7月7日、東京・有明アリーナ

試合前の練習ではよく決まっていたのですが、試合になると入らない。もちろん相手からのプレッシャーの有無もありますが、バスケットボールでは打つべきタイミングでシュートすることは必要ですから、打たない選択はありません。