ユーロモニターの高級品部門責任者、フルール・ロバーツ氏は、ビジネス・インサイダーに対し、「超富裕層を除けば、私たちは皆、生活費の危機を感じています」と語る。
こうした状況において高級ブランド品は、真っ先に支出を削る候補となる。安定した余裕資金のある富裕層以外へとターゲットを広げてしまったことで、不景気の時代にグッチ自らの首を絞める結果となった。
身近路線か高級ファッションハウスか…岐路に立つグッチ
以上のように、グッチの勢いが衰えた背景には、多様な戦略ミスが山積している。伝統を破壊するミケーレ氏の派手なデザイン戦略や、それが特にパンデミック中に敬遠されたこと、そしてセールを頻発する販売体制に、さらには中価格帯のファッションハウスとの提携戦略など、デザイン面でも経営戦略面でも課題が残る。
現在、ミケーレ氏の後任となるクリエイティブディレクターのサバト・デ・サルノ氏が鋭意コレクションを放っている。だが、彼のコレクションは大きな否定論こそ起こっていないにしろ、まだ市場で取り立てて反響を呼ぶに至っていない。
もっとも、グッチがここ数年で推進した戦略は、ある意味では好ましい効果も生んできた。高級ブランドに憧れるすべての若者たちが、少し背伸びをすれば手の届く位置にまで、それまで高嶺の花だったハイブランド商品の垣根を引き下げた。
パンデミック中にはミスマッチが指摘されたとはいえ、ミケーレ氏の派手なコレクションは人々の胸を本能的に躍らせる。外出控えで心が沈みがちだった当時、華やかな意匠に救われたという人々も、ずいぶんといることだろう。
しかし、世界経済がいまだ厳しい状況にある今、若者に支えられたグッチ商品の売り上げは低迷している。富裕層だけが手に入るブランドへ回帰するのか、それとも、親しみを持てる比較的身近なハイブランドとして立ち位置を探るのか。グッチはブランドの再定義を迫られている。