現地時間2022年11月23日、グッチはミケーレ氏の退任を発表した。ミケーレ氏は自身のInstagramで、「ときに私たちは異なる物の見方を持ち、そのために別々の道を歩む時がある」と述べ、20年以上にわたるグッチと袂を分かつことを発表した。

コロナ禍で進んだ消費者の「グッチ離れ」

ミケーレ氏が牽引したデザイン技法は、とくにパンデミックとの相性が悪かった。通常、高級ファッションを購入する消費者は、支出に見合うだけの長期間使用できることを期待する。

だが、いつ外出制限が解除されるとも知れないパンデミック期において、挑戦的なミケーレ氏のデザインには手を出しづらい。購入した当時は最先端であっても、パンデミックが終わるころには流行遅れになっていることが容易に想像できるためだ。

グッチはこの潮目の変化に対応できなかった。シティグループでラグジュアリー商品の戦略リサーチ責任者を務めるトーマス・ショーヴェ氏は、ビジネス・インサイダーに対し、「グッチはパンデミックの開始時、消費者がよりクラシックで控えめな『静かなラグジュアリー(quiet luxury)』を好む市場の急変に、足を取られた」と述べている。

「静かなラグジュアリー」とは、高級ファッションでありながらも控えめなデザインにまとめられた、時代に左右されないアイテムを指す。ビジネス・インサイダーは、静かなラグジュアリーが「2023年で最も大きなトレンドのひとつ」だったと述べている。

記事は「それでも、ミケーレは自分のアプローチに忠実であり続けた」と述べ、デザイナーとしての矜持が裏目に出たと指摘する。

若年層に依存した戦略が暗転

グッチのブランド価値を損なったもう一つの要因は、ディスカウント販売の増加だ。大規模なセールを繰り返したことでブランドの高級感を損ない、消費者に「安売りブランド」という印象を与えた。これにより、ブランドの「デザイラビリティ」(魅力)が大きく低下した。

オルテリ・アンド・カンパニーの創業パートナー、マリオ・オルテリは、ブルームバーグに対し、「グッチは、アウトレット販売を減らし、ブランド価値を高める必要がある」と指摘する。

関連して、安易なパートナー展開で販路を広げ、さほど裕福でない若年層への依存度を高めたことも災いした。近年のグッチは、ノースフェイスやディズニー、メタバースなどの大衆市場向けのパートナーシップを積極的に展開し、富裕層以外の消費者層、とくに若者に依存する戦略を取っている。

写真=iStock.com/AGCreativeLab
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経済不安、インフレ加速で若者たちは真っ先に離れていった

一例として、フランス発祥のファッション誌『エル』は2022年1月、グッチがノース・フェイスとのコラボアイテム第2弾として、防寒ジャケットなどを「サプライズ」発表したと報じている。イギリスの鉄道愛好家である21歳女性のフランシス・ブルジョワ氏をモデルに起用して話題を生み、斬新なキャンペーンにより防寒ジャケットの検索数は1351%急上昇した。

こうした人気ブランドとの提携戦略は一時的には成功したが、永続的な顧客開拓には至らなかったようだ。経済不安やインフレが進む中で、新規に獲得したはずだったこうした若者消費者層は、真っ先にグッチブランドを離れていった。