薬局の香りを再現した…奇妙なドリンクの誕生秘話

ドクターペッパーは1885年、テキサス州ウェーコの町で誕生した。創業者は薬剤師のチャールズ・アルダートン氏だ。彼はどういうわけか、当時働いていた薬局に充満していた薬品の香りを、ドリンクで再現したいと考えたという。これがコアなファンを持つユニークな飲料のはじまりとなった。

ドクターペッパーの発明者、チャールズ・アルダートン(写真=Dr Pepper Museum/PD US/Wikimedia Commons

誕生から139年が経つ今も、その強烈な存在感は変わらない。ワシントン・ポスト紙は、「当たり障りのない商品が並ぶ(スーパーの)棚の中で、ドクターペッパーは常に奇妙な異質さをまとい、謎に包まれたブランドのように感じられる」と、そのミステリアスなオーラを強調する。

ドクターペッパーはその後、常にコカ・コーラやペプシといった大手ブランドと競い合いながらも、独自の地位を築いてきた。特に米南部の州で強い支持を受けており、1970年代には全国的なマーケティングキャンペーンを展開するなど、独自のフレーバーをアピールしている。キャンペーンは愛飲者を「ペッパー」と呼び、彼らが特別でユニークな存在であると称える内容だ。

コカ・コーラとペプシの販路を活用する巧みな「同盟戦略」

奇妙なドリンクが全米2位の地位に君臨した勝因は何か。そこには、キューリグ・ドクター・ペッパー社の巧みな戦略が存在する。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、ドクターペッパーはザ・コカ・コーラ・カンパニーおよびペプシコの双方と「同盟」関係にあると指摘する。客が訪れた飲食店がどちらのブランドを提供しているかを問わず、店内のドリンクディスペンサーに足を運べば、そこにはいつもドクターペッパーがラインナップされている。

このように、ライバル関係にある2社両方の流通網に乗せてしまう柔軟な戦略が、ブランドの認知度を高める一助となった。

さらに、現代の消費を支えるZ世代とミレニアム世代が、幅広いドリンクに興味を示していることも大きな勝因となった。キューリグ・ドクター・ペッパーのアンドリュー・スプリンゲート氏は同紙に、「ドクターペッパーは、特にZ世代の消費者の間で急速に成長しています」と述べている。

彼らは、飲み飽きた従来のコーラ・フレーバーとは異なるドリンクを求めている。ドクターペッパーのユニークな味は、そのニーズを正面から受け止める。

勢いに乗るキューリグ社は、攻めの姿勢を崩さない。近年では「クリーミー・ココナッツ」や「ストロベリー&クリーム」など、新しい実験的なフレーバーをドクターペッパーのラインナップに展開し、消費者の興味を絶えずかき立てている。

ドクター・ペッパー社1971年年次報告書からの写真(写真=Click Americana/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons