【グループ 他人を尊重できない】論破タイプ
権力を持たない人間のささやかな抵抗
子どもたちの間では最近、口論に勝つと、「ハイ、論破!」というのが流行してしまいました。国際舞台で堂々と議論ができる人材を増やそうと、日本でも欧米並みのディベート教育が求められている影響か、議論で相手を論破したがる人が、若い世代を中心に増えているようです。職場においては口下手な人や大人しい人を狙って議論を吹っ掛ける輩もいて、「ロジカルハラスメント」なる新語も登場しています。
ディベートで建設的な議論をするのは、もちろん悪いことではありません。しかし、目的が相手を言い負かすことになってしまい、相手の主張のわずかな矛盾点を突く揚げ足取りのようなことで、議論に勝ったと喜んでいるのは本末転倒でしょう。
とりわけ、職場に「論破好き」の若手社員がいる場合は要注意。ミーティングでの議論をかき乱して、意思の決定や疎通を妨げたり、ほかの社員のやる気をそいだりして、仕事に支障をきたすケースも少なくありません。理論武装に長けていて、一面筋の通った正論で攻撃してくるので、上司にとっても面倒な存在。迂闊に反論して逆襲され、「部下の主張が正しい」と言質を取られると、彼らのペースに巻き込まれ、要求を追認するように迫られるといったリスクもあります。
確かに、正論も社会システムを正しく運用するために必要なケースもあるでしょう。ただ、社会経験が豊富なビジネスパーソンなら、世の中が「正論ばかりでは回らない」ということも、百も承知のはず。言い換えれば、正論を武器に論破してくるということは、組織内で権力を持たず、論理やデータ以外に寄る辺のない人間が、「ささやかな抵抗を試みているにすぎない」とも取れるわけです。相手を論破することで優越感に浸ったり、論理的思考力やコミュニケーション能力の高さを誇示したりするのも、「自分の価値を認めてもらいたい」といった、歪んだ「自己愛」に基づく欲求を満たそうとしているからにすぎません。
正論や論破で、組織の重要な意思決定が覆ることはありません。それは日本の国政を見ていればよくわかります。例えば、今国会で紛糾した裏金問題。与党自民党は、政治資金規正法のわずかな修正で国会の論戦を打ち切り、問題の幕引きを図りました。正論による野党の追及をのらりくらりとかわし、国民が不祥事を忘れた頃合いを見計らって、法改正で禊を済ませる。まさに自民党政治の面目躍如。自分たちの思惑通りに政治を動かしているわけです。
そうした自民党政治の手法は、論破を試みてくる部下を撃退するのにも応用できます。部下を決して無視してはいけませんが、まともに議論する必要もありません。とりあえず部下に言いたいだけ言わせ、「なるほど」などと相槌を打ちながら、ただ聞いておけばいいのです。
ただし、部下の話の内容は、しっかり把握するようにしましょう。その中に、もし「傾聴に値する納得できる意見」があれば、取り入れてもいい。それ以外の意見は、野党の法案を自民党が「廃案」にするように、握りつぶす。厄介な部下を上手に使いこなすのも、上司の役目です。(和田)