184億円の最終赤字、出血は止まっていなかった

2009年12月期は80億円の予想を下方修正し、184億円の最終赤字となった。出血は止まっていなかった。株式発行授権枠(企業が発行可能な株式数の上限)はプロジェクト・リンドバーグでほぼ使い切っていたので、新株は発行できずなす術がなかった。もともと定款上発行できる株式数は140万株。プロジェクト・リンドバーグ前までは発行済株式数が63万7000株。プロジェクト・リンドバーグで新たに発行した株式数が57万5000株。つまり発行済株式数は121万株。あと19万株弱しか発行枠がなかった。

この上は、再び授権枠を広げる特別決議を2010年の株主総会で取り、さらなる増資を行って償還資金を捻出するしかないと考え、発行可能株式数を100万株広げて240万株にしたいと提案した。

「これは怪しい。昨年末に180億円集めたばかりなのにまた増資するのか。その180億円も赤字決算で一挙に吹き飛ばしたというのに」

株主からの非難にこう応じた。

「あくまでも万が一のための準備です。仮に増資するにしても、既存株主の保有割合に応じて新株を割り当てる『ライツオファリング』方式でやるとか、日本を代表するような大企業がケネディクスと資本提携をするなどの、特別の場合だけです」

「プロジェクト・ノルマンディー」と投資家からの罵声

何とか株主を説得し、3月の株主総会で特別決議を取った。そして時を移さず5月に増資を発表した。これを「プロジェクト・ノルマンディー」を名づけたが、発表するや世界中の投資家から「裏切り者!」と罵声を浴びせられた。毎晩のように欧米の機関投資家から電話があり、「どういうことなんだ!」と詰め寄られた。

しかも2010年はギリシャ・ショックが発生し、世界中の株価が暴落していた。ケネディクスの株価もプロジェクト・リンドバーグの時の3万3000円から1万5000円まで下がっており、前年に180億円もの新株を買ってくれた投資家たちは膨大な含み損を抱えていた。「なんでこんな大切なタイミングでギリシャがおかしくなるんだよ! クソ!」と思わず口走った。でも強行するしかない。150億円の社債を無事に償還しなくてはならないのだから。

一方では、ありがたいことに2008年にケネディクスのリートが暴落した時に運用会社の株式の10%を買ってくれた伊藤忠商事の岡田賢二さんが再び動いてくれて、今度はケネディクスの本体の株式の5%を第三者割当増資で引き受ける決断をしてくれた。これを武器に投資家を説得するしかない。