利益の半分が人件費に回る構造
なぜ、書店経営は困難になったのか? ここでは2つを挙げる。
その①は「利益率が低い」。
JPO調査の約1万店舗の主力商品、つまり「取次会社から仕入れる新刊書籍や雑誌」の場合、書店の粗利益率は21~23%が多い。単純に比較できないが、食品、洋服、薬など多くの日用品より低いことはたしかだ。
書店の売上高対人件費率は平均10%余り。これも他業種と比べれば低率であり、ギリギリの人員でも粗利の半分が人件費に回ってしまう。店舗が賃貸であれば、さらに利益を残しにくくなる。
ただ、従来の書店経営は、仕入れた本を返品できることも特徴だった。取次への支払いは仕入と返品の差額なので、支払額を調整しながらやり繰りしていくという、ローリスク・ローリターン型の経営構造になっていた。
ただ、これで継続するには、売り上げが上昇または安定していることが前提になる。
書籍はもともと、その時のベストセラーや人気作家の新作を除くと、それほど多くは売れないものだった。事前の売行き予測も難しい。だが、雑誌や漫画は、読者を獲得したタイトルが発行を続け、最新号、最新巻が出るたびに売れてゆく。
毎週、毎月、書店へ行く理由があれば、他にも面白そうな本はないかと店内を一巡りする。ときには忘れられない1冊に出合うこともある。書店に通うことが生活の一部になっている人が多ければ、本屋のほうも客が興味をもちそうな本を仕入れ、棚に散りばめておく作業がやりやすくなる。
追い打ちをかけた「あるアプリ」
棚を介した、本屋と客のコミュニケーションは、いまも行われてはいるのだが、その経験がないか、忘れている人も増えてきた。大きな理由の②「インターネットが情報インフラの主流になった」からだ。
本に関わる仕事の人、活字中毒者、本屋好きはともかく、昔から多くの人は時間つぶしと情報入手の方法として手軽だから雑誌を読んでいたわけで、それがスマートフォンに移ったのは自然の成り行きである。
ただ、書店と雑誌の関係については、ずっと気になっていることがある。「dマガジン」などの電子雑誌サイトの存在だ。
利用している人には説明不要だが、「dマガジン」などの電子雑誌は、紙版のレイアウトデザインをそのまま転用している。もともと紙版での見やすさ、読みやすさを追求したデザインなのだから、スマホでは読みにくいし、美しくない。
でも、内容を一部削除した雑誌が多いとはいえ、月額数百円で、1000誌以上も見られて、もちろん記事検索などもできる。誌面は同じだから、書店での立読みが家でもどこでもできるようになった感覚。しかもグレードアップしている。
単純に出版社を非難する気にはなれない。世相を反映し、時代と寝る軽さは雑誌の持ち味のひとつであり、電子化も、どう売るかも自由だ。ただ、紙版のレイアウトのまま出したことは、理由②によって雑誌が売りにくくなった書店に追い打ちをかけたと思う。