「自走」までの道のりは長い

ただ、今の中学受験の内容は子どもの力だけで進めていくのは難しいので、親御さんたちが期待するような「自走」までには至りません。なかには何でも自分でできてしまう子もいますが、それはごくまれなケースで、ほとんどの子どもには当てはまらないくらいの気持ちでいた方がやきもきせずにすみます。「今はこの先、自走できるようになるための練習をしている時期なんだ」、そう思っておくといいでしょう。忙しい共働き家庭にとって「自走」は魅力的なワードですが、それが完成するのはもうちょっと先のこと。ですが、中学受験の勉強がその良いきっかけになることは間違いありません。

中学生になった途端に、「これからは自分で勉強できるようにならないと」とパッと目を離してしまう親御さんは少なくありませんが、突然自主性を求めてもうまくはいきません。中1の夏休みくらいまでは見守り、もう大丈夫かなと思ったら少しずつ距離を置く。そのくらい「自走」までの道のりは長いのです。

中学受験の道のりが親子を成長させる

中学受験は小学校生活の半分を費やすほどの「親子のビッグプロジェクト」です。プロジェクトには必ず目標があります。中学受験における目標は志望校に合格することです。しかし、現実は中学受験で第1志望の学校に合格して進学できる子は、受験生全体の約3割に過ぎないといわれています。それだけ厳しい世界なのです。

では、第1志望校に合格できなければ、このプロジェクトは失敗に終わるのかといえば、そんなことはないと私は強く思っています。なぜなら、仕事と子育てはまったく別次元のものだからです。

子育ては大人同士の関係で構築される仕事と違って、「計画通りに進めていけばうまくいく」「この方法でいけば売り上げが伸びる」といった展開にはなりません。「これをやっておけば、必ず成績が上がる」といった因果関係は存在しないのです。

西村則康『「受験で勝てる子」の育て方』(日経BP)

ですが、たまたま良いタイミングで何かの経験をして、それが知的好奇心を刺激し、学びに向かうことがあります。または、親御さんのちょっとした言葉に自信や勇気をもらい、頑張る原動力になることもあります。

でも、どのタイミングでやる気のスイッチが入るかは予測できません。

小学生の子どもは、成長発達の途中にいます。体力的にも、精神的にもまだ未熟なため、頑張れる日もあれば、頑張れない日もあります。そんなでこぼこな日々をくり返しながら、親子で一歩ずつ前へ進んでいく。時にはうまくいかなくて一歩戻ることもあるかもしれません。そこからもう一歩前へ、前へ。その道のりが親子を成長させていきます。

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