振り返ってみれば、2021年3月末はコロナ禍の最中だった。シャオミはスマホの新製品発表会にてEVに参入することを発表し、かねてより噂されていたことが事実となった。EVを作るのに膨大な資金力が不可欠であるため、初期投資は100億元(約2000億円)で、今後10年間に約100億ドルを投資する見通しだ。実際、2022年と2023年にEV関連の研究開発にそれぞれ31億元と67億元を投じた。

EV事業は、雷軍氏が率いることになった。彼は「これまで社内で検討を重ねてきた。最後の起業として自分の名誉、残りの人生をかけてEVに注力する」と述べ、EVをシャオミの新たな成長の柱にする決意を表明した。経営手腕も人柄も評価されている雷軍氏なら成功できると信じる人は多かった。

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ファンの支えで成長してきたシャオミ

人気の裏にはシャオミが抱えている膨大なユーザー基盤とファンの支持がある。シャオミは実にファンづくりがとても上手な企業である。

シャオミは設立直後にユーザーインターフェースでファンコミュニティでもある「MIUI」を立ち上げた。ユーザーと一緒に製品を開発する目的で、使用体験や広告のレコメンド機能、必要なアプリなどにおいて、技術マニアから一般のユーザーまでの声を取り入れた自社製品の改善を積み重ねてきた。

同社の英語表記は「Xiao“m”i」で、「M」を自社のシンボル文字としているため、MIUIに参加するファンは「米粉」と呼ばれている。ファンコミュニティを重視し、熱烈な支持者を囲い込むことでシェア拡大の支えとする戦略は奏功している。2023年末時点で世界におけるMIUIのマンスリーアクティブユーザー数は6億4000万人となっている。この膨大なユーザー基盤が好調なEV販売を支えると同時に先行きを左右すると言っても過言ではないだろう。

残された課題

中国では価格や性能を中心にEV市場の競争が激化し、乱戦模様を呈している。テスラをはじめ、先行しているBYDや、新興勢力で米国上場もしているEVメーカーの「蔚小理(蔚来汽車、小鵬汽車、理想汽車)」、国有企業、民営企業などもEVへの参入が相次いでいる。また、前述したように、クルマのスマート端末化の流れはファーウェイのような大手テック企業のEV参入も後押ししている。

EVを巡る激戦が続いており、今後EVメーカーの淘汰が進むと思われる。業界勢力図が大きく変わる可能性が高まる中、シャオミに勝算はあるのか?

シャオミが直面している主な課題を整理してみたい。まず、価格設定をめぐるユーザーとのコミュニケーションの不足である。SU7の価格が世界に衝撃を与え、海外のメディアが軒並みその性能と価格を評価しているが、シャオミのユーザーにとっては、その価格では車を買えるかと、発売直後から疑問を持つ人が相当いたようだ。