価格競争を強める中国に制裁を発動へ

米バイデン政権が、中国製の電気自動車(EV)、車載用バッテリー、太陽光パネルなどを対象とする制裁関税引き上げを発表した。その措置には、中国が過剰生産能力を使って輸出攻勢をかけるのを阻止する意図がある。

中国の習近平国家主席(2024年5月16日)
写真=AFP/時事通信フォト
中国の習近平国家主席(2024年5月16日)

イエレン財務長官らは、これまでに何回も中国の過剰生産能力は世界経済にマイナスだと警告してきた。欧州委員会からも、中国製のEVは産業補助金や土地の供与などで過度な価格競争を引き起こし、欧州メーカーの収益が減殺されていると批判を強めている。

それに対して中国は、まったく問題は存在しないとのスタンスだ。米国の関税措置に関して、中国政府は即座に対抗措置を示唆した。19日、中国は、日米EUおよび台湾から輸入している、ポリアセタール樹脂(自動車部品などに用いる石油化学製品の一つ)を対象とするダンピング(不当廉売)調査を開始した。今後、中国からの対抗措置は増えるだろう。

バイデン政権の対中制裁措置、それに対する中国の対抗措置は米中の貿易戦争のきっかけにもなりかねない。米中の貿易摩擦熱は高まり、先端分野などでの米中対立の激化は、自動車や化粧品などの分野で中国依存度が高まったわが国にとって無視できない逆風になることが懸念される。わが国企業も相応の準備が必要だ。

中国製EVの関税率は一気に4倍に

5月14日、バイデン政権は中国製品に対する制裁関税率を引き上げた。中国製EVの関税率は25%から100%に上昇する。EVに搭載するバッテリーは7.5%から25%、太陽光パネルは25%から50%、それぞれ税率を引き上げる。

現在、中国のEV、車載用バッテリー、太陽光パネルは、いずれも過剰生産能力を背景に低価格での輸出が急増している。それに加えて、米国は中国製の鉄鋼・アルミに対する関税(0%~7.5%)も25%に引き上げる。

2025年、米国は、中国製の汎用型半導体(旧式の半導体製造装置を用いて生産されるチップ)の関税率を25%から50%に引き上げる方針だ。米国政府は、回路線幅が10ナノ(10億分の1)メートル以下の先端チップ分野で対中制裁を強化した。それは、汎用型の分野にも波及する。

2026年、黒鉛・永久磁石の関税が0%から25%に上昇する予定だ。永久磁石に関して希土類(レアアース)の対中依存の軽減が念頭にあるだろう。今回の対象品目の総額は180億ドル(1ドル=155円換算で2.8兆円程度)。2018年から19年にトランプ政権が実施した対中制裁関税(3700億ドル(約57兆円))の一部を引き上げる。