秋の大統領選をにらんだバイデン氏の思惑

今のところ、BYDが世界トップに成長した中国製EVは、ほとんど米国で流通していない。米国で販売しているEVはテスラを中心とする米国製とみられる。その意味では、今回の関税率引き上げはEVに関して、ほとんど効果はないものとみられる。むしろ、バイデン氏にとって、今年秋の大統領選挙をにらんだ政治的な意味が大きいのだろう。

経済面から考えると、今回の対中制裁関税引き上げは中国の過剰な生産能力の強化、それによる安価な輸出品の増加から米国の雇用を守る意図がある。米国が脱炭素、経済のデジタル化の加速を推進するために、EVや車載用バッテリー、太陽光パネルなど再生可能エネルギ関連技術の強化は不可欠だ。

それに伴い、汎用型から先端分野までチップの需要も増える。バイデン政権は中国製品を国内から締め出し、雇用と所得の機会を増やそうとの意図がありそうだ。特に、半導体などの分野は、米国の経済・安全保障体制の強化にかかわる。米議会からも対中強硬策強化の要請は強まっている。

11月の大統領選挙で再選を目指すバイデン大統領にとって、激戦区の有権者への配慮を示す意味は重要だ。ミシガン州には自動車産業が集積している。USスチールが本拠点を置くペンシルベニア州は鉄鋼生産の中心地だ。

中国は日本に対しても“警告”

14日、中国政府は、自国の経済を守るため必要な行動をとると対抗措置の発動に言及した。習近平国家主席の欧州歴訪でも示されたが、中国は自国に過剰な生産能力はないとの立場だ。

19日、日米欧台から輸入するポリアセタール樹脂に関する調査を中国は開始した。調査は1年間かけて実施する。必要に応じ、6カ月間延長する可能性もある。日中韓の首脳会談を控える中、わが国も調査対象に含まれた。中国は米国の対中政策方針に与(くみ)すれば巻き添えにあうと警告を強めているように見える。台湾に関しては、20日に発足した民主進歩党の頼清徳政権に圧力をかける意図もあるだろう。

20日、中国は台湾への武器売却でボーイングなど米国の防衛大手3社を“信頼できないエンティティー(取引相手)”に指定した。3社とも中国との取引はない。収益への影響はほとんどないとみられるが、報復措置の強化は米中の対話機運に水を差す。米国の大手企業は、中国は敵ではなく競争相手との見解を示し対中デリスキング(リスクの低減)を強化したが、そうした取り組みが難しくなる恐れもある。