行き場を失った激安中国製品がドンドン増える

習政権下、供給能力の強化を優先する中国の経済政策方針が変わるとは考えづらい。中国国内では不動産市況の悪化に歯止めがかかっていない。家計は先行きの不安を強め、貯蓄率は上昇した。

理屈で言えば、供給サイドよりも不良債権処理と公共事業の強化などによる需要刺激が必要だ。しかし、今のところ、そうした政策が発動される兆しは出ていない。中国政府の経済対策はやや後手に回っているといえるだろう。

行き場を失った低価格の製品は、より大量に海外市場に流出することになる。欧州歴訪時、過剰生産に問題はないと明言した習氏の姿勢、米国の制裁関税引き上げ後の中国政府の見解を見る限り、中国の過剰生産能力の拡大は続きそうだ。

中国企業は輸出拡大を目指し、メキシコやベトナム経由での対米輸出強化も企図しているようだ。EV世界最大手のEVメーカーのBYDは、メキシコで工場用地の取得を目指している。米国はベトナムを市場経済として認定するか否か検討を進めている。それが認定されれば、ベトナムの関税は低下する。それを中国が利用し、若干の加工などを付加した製品を米国に輸出し、収益の獲得を狙うことも考えられる。

湾岸のコンテナ群
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日本の半導体企業にも負の影響が出てくる

今後、米国はメキシコなどに、中国企業の締め出しをより強く求めることになるだろう。カナダも中国製EVに対する関税引き上げを検討し始めた。また、欧州委員会は中国製EV、太陽光パネル、医療機器、鉄道車両などに加え、ブリキ鋼板の反ダンピング調査も開始した。

欧州の自動車業界は欧州委員会の対中EV制裁関税への懸念を強めた。中国の報復措置は、ドイツ自動車メーカーなどの収益減少につながるとの不安は多い。それでも、過度な価格競争から産業を守るために、欧州委員会が対中制裁関税で米国と歩調を合わせる可能性は高い。

大統領選挙を挟んで、米国が対中制裁措置を強化したり、関税を引き上げたりする恐れもある。特に、戦略物資として重要性が高まる半導体分野で、米国の対中強硬姿勢は強まるだろう。米国は、半導体の製造・検査装置など半導体関連部材の分野で競争力が高いわが国の企業に、米国が対中輸出管理体制をより強化するよう求める可能性もある。