「中国のジョブズ」と呼ばれるカリスマ経営者への共感

4月25日~5月4日、北京で行われた北京モーターショーはこれまでと違う景色だった。

従来ではモーターショーの主役はクルマでありながら、それを盛り上げるのがクルマの隣に立つモデルの女性たちのようだったが、EV大手のBYD(比亜迪)創業者の王伝福氏、世界最大のEV用バッテリーメーカー・CATL(寧徳時代新能源科技)創業者の曾毓群氏などEV関連有力企業の経営トップが注目された。その中でも、初出店したシャオミ・雷軍氏への注目度は高かった。

シャオミ人気の要因の一つが雷軍氏のキャラクターだ。従前からSNSを通して積極的に発信し、そのキャラクターがファン獲得に一役買っている。

雷軍氏はアップルの創業者スティーブ・ジョブズ氏の大ファンを自認し、iPhoneだけでなく、ジョブズ流の経営やプレゼンもお手本としてきた。2011年から毎年8月に開催している製品発表会には、ジョブズ氏を彷彿させるTシャツとジーンズ姿で登場し、中国では「中国のジョブズ」と呼ばれるほどイメージは定着している。

雷軍氏講演会
2023年に開かれた講演会のテーマは「成長」だった(小米ウェブページより)

アップルと異なるのは雷軍氏の公開スピーチが製品発表前に行われていることだろう。昨夏、雷軍氏は「成長」をテーマに講演した。

3時間に及ぶスピーチでは、1987年に武漢大学コンピューターサイエンス学部に入学して以降歩んできた道や学んだ教訓を「成長」というテーマに絡めて話し、大きな反響を呼んだ。「夢を持つことが重要で夢の堅持は成長につながる」や「起業は人を早く成長させる重要な手段」など自身の成功体験に裏付けられた彼の言葉は、多くの人を鼓舞し励ましとなり、雷軍氏はカリスマ経営者として若い人たちの偶像となっている。

実際、創業数年でシャオミを成長の軌道に乗せた彼の経営手腕や、ユーザーとの交流を常に重視し、社会貢献への高い意識も持ち、勤勉で地道に努力するという人間性に惹かれシャオミの商品を買ったりシャオミのファンコミュニティ(後述)に入ったりする人は多くいるという。

シャオミ小売り店
写真=iStock.com/Robert Way
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利益率を5%以下にする「コスパ優等生」への支持

「コスパ優等生」――。これが中国の多くの人たちが抱くシャオミ創業以来のブランドイメージと言ってもいいだろう。特に若者層を中心に支持されている理由となっている。

シャオミは「無印主義」を標榜し、「シンプルなデザイン」「高品質」「リーズナブルな価格」を自社製品の特徴としている。

例えばスマートフォン。部品サプライヤーや生産チェーンの整備など多くの苦労を伴った紆余曲折を経て、売価1万円以下の格安スマホを大ヒットさせた。以降、ローエンドからハイエンドモデルまで、機能性とコストパフォーマンスをアピールする戦略で、中国のスマホ市場の激戦を勝ち抜き、国外市場でのシェア拡大にも成功した。2023年の出荷台数は1億4640万台で、アップルとサムソンに次ぎ、世界3位のシェアを占めている。