期限は3カ月。追い詰められる中で起きた奇跡

提案がとおって、研究中止から一転、エクオールを産生する菌を特定する計画にゴーサインが出た。ただし、菌を探し出すのに許された期限はたったの3カ月。上野さんたちはさらなる逆境に立つことになった。

写真提供=大塚製薬

「エクオールを代謝する安全な菌が見つかれば、世界初の大発見(大塚製薬調べ)でもあります。不安はありましたがきっと見つかると信じ、ひたすらに取り組むしかない。6年で予算が底をつき試験管を買う資金もないなか、内山と私、助っ人で来てくれた当時研修生だった新人のたった3人で1300株近い菌を培養し続けました。結論から言うと期限内に目当ての菌は見つからなかったのです。いよいよこれまでかとあきらめかけたところに奇跡が起こりました。期限の翌朝“ラクトコッカス20-92”という乳酸菌がエクオールを代謝していることが確認でき、土壇場で発見できたのです」

皮一枚でつながっていたエクオール研究は、ある乳酸菌との出合いで見事続行が決まった。この乳酸菌発見から12年後、通算18年の月日をかけて、2014年にエクオール含有食品「エクエル」を発売。主成分であるエクオールは、女性の健康や美容に役立てるために1日あたり10mgの摂取が目安になるが、そのための大豆イソフラボンを大豆食品から摂取しようとすれば、豆腐なら3分の2丁(200g)、納豆なら1パック(50g)、豆乳ならコップ1杯(200g)を毎日摂る必要がある。しかしサプリメント4粒で同量のエクオールを摂ることができることから、大塚製薬の通販サイトや、婦人科をはじめとする医療機関でも販売され、大評判となった。さらにエクエルの研究成果は、上野さんが新人時代から継続していた研究ともつながり、2021年には、月経前の健やかな女性をサポートするサプリメント「トコエル」にも結実した。