女性活躍に欠かせない研究職の働き方改革
「趣味は仕事」と言い切るほど情熱をもって研究に邁進してきた上野さんは、研究姿勢や実績を評価され、2023年、大塚製薬 佐賀栄養製品研究所所長に就任した。この年、大塚製薬の研究施設では同時に2名の女性所長が誕生している。女性活用の機運が高まるなかでの抜擢だが、圧倒的な仕事量と成果を出してきたことはもちろん、何事にも論理的で、管理職として研究所員をニュートラルに評価できるマネジメント能力には定評があり、前々から所内で次期所長は上野さんしかないという空気があったという。これまでの昇進も女性初の連続だった。
「周囲が歓迎してくれて、私が研究所で女性初の課長になったときなど、元の職場の上司まで喜んでお祝いしてくれました。思えば若手のころから、重要な会議に呼んでいただいたり、発言する機会を与えてもらったりなど、そういった社風のなかで研究者としても、管理職としてもていねいに育てていただいたという実感があります」
一般的に企業の研究職は男性優位ではあるものの、佐賀栄養製品研究所では4割が女性。同期にも先輩にもあたり前に女性がいる環境があり、これまでも性別を理由に苦労したことはなかった。
「女性研究者だからと理不尽な思いをしたことはありません。外部の専門家も、男性の婦人科医などは女性と接しなれている人が多いこともあるかもしれません。社内でも、女性特有の課題について提案する場合であっても、上層部の男性役員は“われわれにはよくわからないが……”と言いながらも“ニーズがあるならやってみたらいい”と背中を押してくれるような対応でした」
ただ、組織の頂に立ってみて、上野さんはハタと思うことがあったという。所長として研究所全体の運営を考える立場になってみて、自身も専門性を追求するあまり他人の研究について表面的にしか知識がないことに改めて気付いたそうだ。
「現場の研究員としては専門性を深めることが第一と思っていましたが、今はそうとは限らない。メイン分野を持ち、人から信頼される専門性はあるべきですが、サブ分野で広くいろいろなチームに関わることも大事、情報を占有しないことが肝要です。メインとサブで情報共有ができれば、働き方にも余裕が生まれて、休暇も普通に取りやすくなるはずです」
男女問わず研究職が長く仕事を続けるための策として、情報共有の徹底は、ライフイベントなどで仕事を休める体制には必須だと感じている。
「休みやすくなるうえにメリットもあるんです。ほかの人の研究について話す機会があると、視野が広がるし、自分の研究にもプラスになります。お互いの仕事を知ることで、話す機会が増えて、ますます情報共有が進むでしょう。続けていけば、社内人脈のネットワークが強化されて、全社的な相乗効果があるはずだと考えています。まずは日ごろの雑談からですね」
こまめなコミュニケーションからネットワークをつくっていくことで、知識だけではなく、社内外の人脈も共有されれば、適切な相手に相談したり、新しいアイデアが生まれたりする土壌が生まれ、組織の強みになるはずだと期待しているのだ。
すでに発売された「エクエル」「トコエル」だが、実は研究開発は発売以降も続けられている。世に出したらおしまいではなく、顧客ニーズや、新しい機能性などを付加して、時代に合った製品に更新していくのが、研究所の使命だと考えている。
「日本の女性は体の不調に対してガマン強いと感じます。だからこそ、解決への選択肢を提示してあげられるように、この仕事をとおしてもっともっと女性の力になりたいと思っています」
終始淡々と穏やかな笑顔で語る上野さんは、熱い研究者魂を内に秘め、今日も静かに奮闘している。