失敗さえ肥やしにする研究者魂

上野さんは「研究の中止」という大事件を振り返りながらも屈託がない。それには研究職ならではのマインドの持ち方があるようだ。

「実験で結果が出ないことはよくあること。失敗だと後悔するよりは、あくまでも前向きに結果は結果として捉えることにしています。うまくいかなくても終わりではない、ほかに方法があるかもしれないと考えます。あきらめが悪いんです(笑)。しかし検証は必要で、イソフラボン研究のケースでは臨床試験の知識や経験が少なかったこと、専門家を交えて内容を練ってから実証実験を実施すればよかった、など反省は多々ありました。むしろ苦い経験があってこそ、後に十分な成果が得られるようになったとも思います」

ピペットからペトリ皿に液体を滴下する科学者
写真=iStock.com/Liudmila Chernetska
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不屈の研究者精神は理学部で微生物を研究していた学生時代に培われた。あてもなく海や山を歩き回り、目的の微生物を採取しては培養するという根気のいる作業を繰り返していたそうだ。将来は研究者として一本立ちしたかった上野さんは、医薬品メーカーでありながら食品や飲料の独立した研究施設を構え、基礎データをもっていることに魅力を感じ、大塚製薬に就職した。

「研究職は多忙ですが、やりたかった仕事なので苦にならないですね。微生物が好きなんです。ゾウリムシやミドリムシなど、細胞一つしかないのに、食べたり光に反応したりして、意志をもって動くでしょう、それがおもしろくって。微生物を観察したり、実験したりするのが楽しくて仕方ありません」