戦争のおかげでハッピーになったロシア国民

【小泉】ロシアは2022年9月に一度、兵の動員を行っていますが、この時にプーチンは国民から総すかんを食らって支持率が低下し、以降、動員を実施していません。

代わりに現在はじゃぶじゃぶの財政出動で軍事費を平時の4倍程度支出し、移民や貧しい人たちを軍隊に採用する経済徴兵によって、危ない仕事は彼らにやらせている。軍需工場はフル稼働で失業者を吸収し、この4月の失業率は過去最低の2.6%だと報じられています。

※「ロシアの失業率、4月は過去最低 賃金大幅上昇で労働市場逼迫」(ロイター、2024年6月6日)

中産階級や都市部の普通の労働者は、普段通りに仕事をしています。ロシア経済の専門家に話を聞いたところ、ロシアの賃金の伸び率はインフレ率を上回っているそうですから、ロシア国民は可処分所得が増えてむしろハッピーになっている。

もちろん、戦争に行かされている人、死んでしまった人たちやその家族などは全くハッピーではありませんが、こうした人たちは政府による締め付けが強まったことで声を上げにくくなっています。

逮捕される人たちの数も桁違いに増えていますし、動員された兵士たちの解除を訴える母や妻の団体である「プーチ・ダモイ」はとうとう「外国の代理人」に認定されてしまいました。

プーチンは好きだけど、戦争にはいきたくない

――「外国の代理人」とはスパイ認定ということですよね。

【小泉】そうです。しかしそれによってロシア国民のプーチン支持が揺らぐことはありません。なぜなら、プーチンが強権をふるうときは国家の安定に必要だからだと認識されているためで、「プーチンはわれわれのため、国益のために頑張っている」という評価になってしまう。

だから弾圧されている人たちを見ても、「スパイだから捕まったんだ」「外国のエージェントだから仕方ない」と見えている。

ただし、先ほども述べたように動員を行った際には、戦争始まって以来最大の支持率の落ち込みを見せました。ロシア国民は威勢のいいプーチンは好きだけれど、「お前も戦争に行ってくれ」と言われるとなると話は別です。

しかし現在のように動員もなく、ロシアの外で戦争をしていて、経済も潤っているうちは、戦争と言ってもロシアの人たちにとってはまだまだ他人事です。そう思わせるように、また自身の支持率が落ちないように、プーチンがかなりの“努力”をしているとも言えますが。

撮影=プレジデントオンライン編集部
最近は、衛星画像サービスを用いて原潜艦隊を含むロシア軍の活動を「勝手偵察活動」しているという。