健康寿命を延ばすためにDNAの修復に着目

先程から寿命の話をしてきましたが、病気がちで長く生きるのではなく、健康なまま長生きすることが理想です。一般的には平均寿命と健康寿命は10年ぐらい違っていて、72~73歳頃から何かしらの薬を飲んでいる方が多いです。日本において理想的な死に方とされてきた「ピンピンコロリ」は、平均寿命と健康寿命がほぼ同じ、という状態のことです。

私は生物学者として、遺伝子の側からのアプローチで、健康寿命を延ばす方法を考えています。例えばがんはゲノムの変異(遺伝子情報の変化)で引き起こされるため、歳を取るほどリスクが上がるのですが、これを起こさないようにするといったことです。

紫外線や放射線、活性酸素などによってDNAに傷がつくと、ゲノムが変異を起こします。ゲノムの変異は分裂のたびに蓄積し、そのうちに細胞増殖のコントロールに関わる遺伝子が壊れると、どんどん細胞が増殖してがん化してしまうのです。これがヒトの場合には55歳くらいから顕著になっていきます。これを防ぐためには、遺伝情報がきちんと複製され、修復されるようにしてやることが必要です。

また、早期老化症という、寿命が短くなる病気があります。これは主に7種類あるのですが、そのうち5種類の原因は、DNAの傷を治す修復酵素の遺伝子の変異です。その遺伝子に変異があると、普通の人に比べてDNAを修復する能力が少しだけ下がるのです。

『エース』編集室『「死」を考える』(集英社インターナショナル)

これにより老化が速く進んでしまいます。逆に言えば、この問題を解決すれば人間の寿命は延びるはずです。酸素の消費量が多く、活性酸素(ROS)がたくさん発生する心臓は、DNAの酸化損傷が起きやすいのですが、DNAの修復能力が上がれば、心臓の寿命も延びて、拍動回数の限界が増えるかもしれませんね。

私自身は、長生きしてカルマンさんの122歳の記録を抜こうと思っています(笑)。「実は私、100歳なんですよ」と言ったら、みんなが「ええ!」とびっくりするくらいになるのが目標です(笑)。まずは老化の症状を軽減するサプリメントなどを開発し、自分の体で安全性を含め試してみて、実際に効果があったら、他人にも勧められるのではないかと思いますね(笑)。

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