シスターフッドの物語でもある「とらつば」は多様な痛みを描く
――ドラマ好きでたくさんの作品を見ている福島さんから見ても、よくできているドラマということですね。
「虎に翼」はすぐれた群像劇なんですよ。主人公の寅子は魅力的だけど、彼女が絶対的に正しい存在ではない。努力だけが唯一の価値観でもない。学べなかった人、学ぶ機会にすら与れなかった女性のことをとりこぼさない。
花江ちゃん(森田望智)のように女学校を出て主婦になる人、嫁姑問題に悩む人もいる。崔香淑(ハ・ヨンス)のように植民地からきて、弾圧を受けて恐怖の中で祖国に帰らざるをえない人もいる。そこで別れ際に「お国の言葉でなんて呼ぶの?」と読み方をたずねる涼子さま(桜井ユキ)、「ヒャンちゃんって呼んでもいい?」という梅子さんの、知性とやさしさね。
その涼子さまの母親(筒井真理子)は、華族の身分だけれど、夫が芸者と浮気して出ていって、ボロボロになって娘に甘えて縛るでしょう。母を見捨てられず、涼子さまは家を守るために高等試験をあきらめる。いろんな人の苦しみが描かれていますよね。
どれもこれも、これまでそこにあったのに、表立って描かれてこなかった痛みですよ。
毒親で悩む若い人たち……親は親の人生を歩むべき
――涼子さまの試験断念は「親が重い」「毒親」という現代の問題につながります。
そう。わたしFacebookをよく見るんだけど、いま、若い人で親との関係にずっと悩む人が多いでしょう。大変よね。子どもの数が減っていることとも関係あるんでしょうけど、親は親で自分の人生を生きなくちゃいけないと思いますよ。子どもの人生をコントロールしようとするんじゃなくてね。涼子さまがもう少し若ければ、ヤングケアラーになっていたでしょうし。
わたし、両親から大事にしてもらったなぁっていまになって感じるんです。あれをするな、これをするなって全然いわれなかったの。でも、4回目の挑戦で司法試験に合格したときに「実はね、父さんも母さんも御百度参りしてたんだよ」って。プレッシャーになると思って子どもにはいわずに、ただ見守ってくれていた。
だからわたしも、娘はもう成人して弁護士をしていますけど、小さな頃から本人の意思を尊重するように心がけました。うちは夫婦別姓を望んで事実婚でしたから、姓も保育園に入るときに「どっちがいい?」って聞いてね。
そしたら「こっちのほうがかっこいいから、こっち!」って、自分で選んだ姓を使っていました。子どもは小さくても自分で考える力を持っています、もちろん権利も。最近の共同親権の問題でも、子どもの意思が置き去りになってますよね。ここにも家父長制が残ってるんですよ。
――「虎に翼」はまさに家父長制を描いて、ほどいていこうとするドラマですよね。
そう。ドラマの序盤に出ましたけど、戦前の民法では「妻は無能力者である」と。夫が妻の財産をすべて管理する。つまり女・子どもを「家長の所有物」だととらえているんです。それが少しずつ前進してきたその歴史の中に、寅子のモデルになった三淵嘉子さんがいるんですね。大きく変わったところもあれば、いまもまだ残る部分もありますよ。
――インタビュー後半は、ぜひそのあたりから続きをうかがいたいと思います。