司法試験に受かっても、女性を募集する弁護士事務所がない時代
――福島さんは、1987年に弁護士登録。ドラマで寅子が乗り越えていくように、女性ゆえの差別を受けた記憶はありますか?
当時はそんなに不自由を感じた記憶はないんですよ。いま話した1976年の差別問題があったでしょう。先輩方がそうやって、差別を差別として問題化してくれたからこそ、その後の世代には自由な空気があったのかもしれないよね。
私は、司法修習生時代に結婚して出産したので、子どもがいる女性だからということで、ハンディはありました。やはり男性より女性のほうが就職が決まるのは遅かったという記憶はあります。その直前まで男女雇用機会均等法(1986年施行)のない時代で、求人を男女で区別することも禁じられてない。大学の学生課で求人票を探しても、どこも募集が「男性のみ」でしたから。
――1933年に、女性が弁護士になる道がやっと開かれた。そこから50年以上経っても、そもそも女性弁護士の募集がなかったんですね。
そう。でも、引き下がるわけにいかないから、「男性のみ」って書いてあるたくさんの求人票をじーっとにらみながら、「ここは!」と思ったところに電話をかけて、手ごたえがあれば「女性だけれど、がんばりますから。お役に立ちます!」といって履歴書を送って面接してもらう。そういう時代でしたね。
推しキャラは不器用な「よね」、優しくも強い母「梅子」
――「虎に翼」ではお好きなキャラクターは?
むずかしい質問! だってあのドラマ、どの登場人物も魅力的でしょう。本当によくできてるもの。よねさん(土居志央梨)は男装を貫き通して、そこにはつらい過去があって、勉強熱心で、不器用で……仲間を思う気持ちが芽生えていく変化が描かれていてね。
梅子さん(平岩紙)は優しくて、本当に芯の強い人。家庭を切り回しながらずっと勉強してきたのに、高等試験(現在の司法試験)当日にモラハラ夫(飯田基祐)に一方的に離婚を切り出されて。長男と次男を父親に取られて、「間に合わなかった……」と三男を連れて海を眺める。
あれこそが旧民法、家父長制の弊害ですよ。女性を下に見て、(子を産ませて家事労働をさせる)道具だとしか思ってない。そして、妻が自分よりも優秀さを発揮しようとすると妨害する。
現代でも梅子さんのような案件ってあるんですよ。弁護士として離婚事件を担当したときに、一見、不貞事件なのだけど、よくよく紐といていくと、奥さんが大変な努力をして公認会計士に合格したと。夫としては面白くない。自分が下になった気がしたんでしょう。
「僕なんか、妻には釣りあいませんから」なんていって若い女の人と浮気する。そんな劣等感を持たなくっていいのに。男性は女性よりも上のはず、上じゃなくてはいけないっていう無意識の価値観があって、そうなっちゃうわけでしょう。