妻のベサニー・ボンジョルノ氏は天体物理学の元研究者であり、Apple入社後はオペレーティングシステムのディレクターとしてiOSとmacOSの開発を率いた。このほか、元エンジニアリング・シニア・ディレクターのパトリック・ゲイツ氏がHumaneの最高技術責任者を務めている。

Ai Pinへの期待の大きさは、Humane社の資金調達にも現れた。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、開発中の昨年3月、Humane社が1億ドル(5月21日のレートで156億1250万円)を調達した。Chat-GPTを手がけるOpenAIのサム・アルトマンCEOが個人で出資し、AI処理を行うクラウドサービスでマイクロソフトとの協力が発表されたことでも注目を浴びた。

ロイターは昨年11月、マイクロソフトやアルトマン氏などからこれまでに総額2億4100万ドル(5月21日のレートで約376億2685万円)を調達したと報じている。

ドリームチームが最高の布陣で世に出したAi Pinだが、残念ながら現在の評価は低い。

不評を買っているもうひとつのAIデバイス

不評を買っているAI製品は、Ai Pinだけではない。米スタートアップの「rabbit(ラビット)」は今年1月、AIアシスタント・デバイス「r1」の出荷を開始した。

こちらはピン型ではなく、スマホを2つに折って正方形にしたようなサイズの手持ち型だ。オレンジの筐体に、カメラと小型ディスプレイが備わる。価格は199ドル(約3万1000円)で、Ai Pinの3分の1以下と比較的手頃だ。

1月10日公開の動画で同社のジェシー・リューCEOは、使い方を覚える必要もないほど直感的な、コンピュータの「コンパニオン(親しい友人)」を世に出したいと説明。そのためには、「既存のスマホの、アプリを前提としたOS」から決別すべきだと訴えた。

リュー氏は、既存のスマホはホーム画面がアプリで埋め尽くされており、何をするにも専用アプリが必要だと指摘。さらに、アプリのダウンロード・ランキング上位をゲームが埋め尽くしている現状とあわせ、「私たちのスマートフォンは時間を節約する道具ではなく、時間を潰す道具になってしまった」と主張する。

そこで、AIが口頭で指示を受け、アプリなしであらゆる基本的なタスクをこなす独自のOSを搭載した「r1」を発売し、複雑化したスマホの世界を変えたいという趣旨だ。

デザインはキュートだが、使い続けることは「重荷」

ところが、r1にも逆風が吹く。

米テックメディアのワイアード誌は、10点満点で3点の低評価でレビュー。「キュートでレトロなデザイン」は肯定したが、発売時点での対応機能の少なさ、プライバシーへの懸念、AIによる誤った回答が繰り返し起きていることを問題に挙げた。

備え付けのスクロール・ホイールも操作性が悪く、総合的に「ああ、これはイライラする!」と記事は吐露する。1週間ほど試用したが、AIに質問しても回答に時間がかかるうえ、正確な答えを得られないことが多かったようだ。

どこへ行くにもスマホに加えて2台目のデバイスを持たねばならないうえ、r1では完結しないタスクが多いため、スマホを取り出す機会はさして減らない。記事は、r1は「パーソナル・アシスタントではなく、重荷である」と述べる。