パスワードを入力するだけで疲弊する

ハードウェアも使いにくい。第4の不満に、目玉機能であったはずのレーザプロジェクターが挙げられる。

文字や画像を手のひらに投影するコンセプトは近未来的だが、明るい屋外では極めて見づらい。スターン記者は、「なんで外で見えないスクリーンなんて作ったの?」と不満を漏らす。

第5に、未来的だが直感的でない操作性が挙げられる。

米エンガジェットの記者は、「Ai Pinを使った暮らしは、まるで詐欺に遭ったような感覚」だとこぼす。はじめは「シンプルなデザインと、プロジェクターという面白い趣向」に惹かれたが、日が経つごとに苛立ちが大きくなったという。

メニュー操作はプロジェクターを通じて行うが、指がつりそうな複雑なジェスチャーが必要となる。手のひらにメニューを投影した状態で、手を上下左右に傾ける、親指と人差し指で円をつくる、指を閉じてグーの形にする――などを何度も繰り返し、メニュー項目をたどる。

パスワードの入力は、まさに悪夢だ。手のひらを遠ざけたり近づけたりすると、投影される数字が0~9に変化する。任意の数字を表示した状態で、指を円にして決定。これを桁数の分だけ繰り返す。

例えば、外が寒いからとカフェに入り、上着を脱いだとする。上着からシャツへとAi Pinの付け直しとなり、こうなるとパスワードも再入力だ。英数字混じりのWi-Fiパスワードに至っては、入力は「苦痛というよりは、不可能」だと記者はいう。

「怪我をすることなどあってはならない」

第6に、安全面の配慮が足りない。

バッテリーは非常に熱くなり、エンガジェットの記者は体勢を変えた拍子に「うぉっ!」と驚きの声をあげた。試用中、腕を組んだときなど、何度もやけどをしたという。同記者は「700ドルもするガジェットで怪我をすることなどあってはならない」と、安全面への配慮不足を指摘する。

ワイヤレスで充電できるAi Pin
写真=Humane press kit
ワイヤレスで充電できる

最後に、AI特有の誤回答「ハルシネーション(幻覚症状)」も大きな問題だ。

米テックメディア「ヴァージ(https://www.youtube.com/watch?v=_w1vv7_dU2Y)」のデイヴィッド・ピアース記者は、米ライドシェアの「ryde(ライド)」の街頭広告にAi Pinを向け、「この会社は何?」と質問。

するとAi Pinは、「この会社はLyft(リフト)と呼ばれています」と、大胆にもライバル企業の名を挙げた。ピアース記者は大声で笑い出し、カメラ係は「ワオ……」と絶句。しばしのあいだ、ピアース記者の笑いが止まることはなかった。

共同創業者は元Apple幹部の夫婦

不評の嵐に見舞われているAi Pinだが、Apple出身者のスタートアップが開発し、かつOpenAIのサム・アルトマンCEOが個人出資しているとあり、事前の期待は大きかった。

夫のイムラン・チャウドリ氏は、ヒューマン・インターフェース・チームの元デザイン・ディレクターとして20年以上にわたり、Macintosh、iPod、iPad、Apple Watch、iPhoneの開発に携わってきた。