トクホ審査では安全性が確認できず
一方、トクホとして2013年に申請されていたのは、同じエノキタケ抽出物を含む蹴脂茶。粒と飲料という違いはありますが、トクホ審査に提出された試験成績等は、機能性表示食品として届出されたものとほぼ同様とみられます。
食品安全委員会は2015年5月、トクホとしての安全性の評価をまとめました。事業者の説明した作用機序について「生体内において実際にその機序で作用していると判断するには十分なデータが示されていない」と判断。そのうえで、「事業者の説明する作用機序を前提とすれば、提出された資料からは安全性が確認できない」と結論づけました。
なんともわかりにくい言い回しですが、事業者が、効果を示すエノキタケ抽出物の作用機序について、「脂肪細胞の表面に存在するβ3-アドレナリン受容体に結合することで、脂肪細胞中の脂肪滴の肥大化を抑制する」などと説明していたことが問題でした。
食品安全委員会の専門家は「β-アドレナリン受容体にはβ1、β2、及びβ3という3種のサブタイプが存在するが、本食品の関与成分の選択性は低く、非特異的に全てのサブタイプに結合するおそれがある」と考えました。
そのため、「本当に、そんな作用機序で効いているなら、体内のさまざまな細胞のβ-アドレナリン受容体に結合することになり、動悸、頻脈、不整脈、血圧上昇等の疾患につながるよ。でも、そんな作用で効いているとは思えないけどねえ」と判断したのです。
事業者は機能性表示食品として再び届出
食品安全委員会が蹴脂茶のリスク評価をまとめ「安全性を確認できない」としたことで、蹴脂茶はトクホとして認められませんでした。これらの議論は、評価書や食品安全委員会・新開発食品専門調査会の議事録として今も公開されています。
片や届出、片やトクホ却下。2015年当時は話題になったのですが、古い話なので、ほとんどの人が忘れています。ところが、話はこれで終わりませんでした。
機能性表示食品として2015年4月に届け出た蹴脂粒は18年8月、「届出表示文言変更のため」という理由で届出を撤回されました。そして、機能性関与成分名を「エノキタケ由来脂肪酸(リノール酸、α-リノレン酸)」に、1日の摂取量を1.2mg(リノール酸0.9mg、α-リノレン酸0.3mg)に変更して、2019年から計11件、機能性表示食品が届出されているのです。
以前の関与成分は、遊離脂肪酸混合物2.4mgでリノール酸やα-リノレン酸、ペンタデカン酸等で構成される、と説明していましたので、関与成分をリノール酸とα-リノレン酸に絞った、ということでしょう。