「これまで被害が出ていないから、安全だ」

成分名が変わっていても、内容は蹴脂粒とほぼ同じ。事業者が提示した作用機序も、言い回しは違いますがほぼ、蹴脂粒やトクホの蹴脂茶として申請されたものと同様です。安全性の根拠も、トクホのリスク評価書で論じられた試験成績とあまり変わらず、ヒトでの過剰摂取試験の用量がトクホでは2.85倍、機能性表示食品では5倍量になっているだけ。

食品安全委員会が動物の飼育環境が不適切であった可能性があるとして「安全性の評価に用いることはできない」と判断した動物試験についても、堂々と根拠の一つとして用いています。作用機序についても、食品安全委員会の「安全性を確認できない」という懸念を解消するような科学的根拠は示されていません。

驚くべきことに、消費者庁に届出された書類の中に、食品安全委員会の評価について言及しているくだりがありました。「食品安全委員会の評価は、関与成分の安全性を否定した内容にはなっておらず、βアドレナリン受容体にする非特異的作用を有するのであれば、心血管系、泌尿器系等への影響を及ぼす可能性は否定できないということに留まっている」と記述し、「これまで類似製品で被害が出ていないから、安全だ」と届出しています(画像1参照)。

【画像1】エノキタケ由来脂肪酸を機能性関与成分とする製品の一つで届出された「安全性評価 総括」
【画像1】エノキタケ由来脂肪酸を機能性関与成分とする製品の一つで届出された「安全性評価 総括」出典=機能性表示食品「キトヘルス」届出資料。ほかのエノキタケ由来脂肪酸を機能性関与成分とする製品でも、同様の記述がある

トクホで却下された成分でも受理されてしまう

いやはや、食品安全委員会もコケにされたものです。トクホと機能性表示食品の両方を所管する消費者庁が、この届出書類をすんなり受理するのも不思議ですが、機能性表示食品制度では、消費者庁は届出書類をあくまでも“形式的”にチェックするのみ。したがって、製品の安全性判断に客観性がなく食品安全委員会に従わずとも、制度上は問題がありません。

ちなみに、事業者はエノキタケ抽出物の安全性として1990年から流通していたことや、類似製品の販売歴が10年以上あり危害情報が報告されていないことなどからも安全、としています。

しかし、海外で食経験から安全とみなされるのは、幅広い人たちに20〜25年以上食べられていた実績。しかも、抽出濃縮などを経たものは、もとの食品と同等とはみなされません。エノキタケと、そこから抽出濃縮したエノキタケ抽出物は別もの。エノキタケ抽出物は国民に幅広く喫食されていたわけではなく、海外であれば安全の根拠にはなり得ません。

これでも通るのが、機能性表示食品制度なのです。