エビデンスピラミッド最下層の製品がぞろぞろ
私は、2005年に『「食品報道」のウソを見破る 食卓の安全学』(家の光協会)を出版したのですが、そこで「体験談は信用度ゼロ」「動物実験にごまかされてはいけない」などの項目を立てて説明しています。事業者だけでなくテレビなどのメディアも、健康効果の根拠として堂々とこれらを取り上げ、ひどい状況でした。
図表1のエビデンスのピラミッドは、医薬品や治療法、食品の機能性などの根拠の強さについて、トップクラスのメタアナリシス・システマティックレビューから一番低いin vitro(試験管内)で行う細胞試験までを図示した有名なものですが、昔は下の方の試験結果しかない成分や専門家のお墨付きだけの「健康食品」が当たり前、だったのです。
私が取材する限り、エビデンスの弱さを自覚しながら売る事業者はまだマシで、なにが悪いのか、なぜ細胞や動物を用いた試験で効果があるだけではダメなのか、理解していない事業者がいました。安全性についても「自然だから」「食品だから」問題ない、というレベルの理解しかないのです。なのに、「製品で、消費者の健康に貢献したい」と公言し、無知の“善意”を見せつけられる状況でした。
エビデンスが事業者に浸透した
それが、機能性表示食品制度によって大きく変わりました。この制度は、消費者庁が機能性や安全性等についてガイドラインを示し、事業者がそれに従い、自己責任で書類を届出て機能性を表示できるようになります。
当然、ヒトでの試験結果が必要で、機能性については図表1のエビデンスのピラミッドなら、1番上のメタ解析・システマティックレビュー(研究レビュー)か2番目の無作為化比較試験が求められます。安全性についても一定の水準がガイドラインで示されています。
以前からあった特定保健用食品(トクホ)は、国が特定の製品を審査し表示を許可するもので、ヒトの試験結果が求められ安全性も詳しく評価されていました。しかし、トクホは情報開示が著しく少なく、許可までに長い歳月と億を超える費用が必要とされ、中小事業者にとっては“関係ないもの”。機能性表示食品制度により、業界関係者にとってエビデンスが“自分事”になったのです。これにより業界で、エビデンスという概念が定着した、と事業者自身からも聞きました。