抜かれた日本人が可哀想?

高校駅伝の区間距離は男子が1区10km、2区3km、3区8.1075km、4区8.0875km、5区3km、6区5km、7区5kmの合計42.195km。女子は1区6km、2区4.0975km、3区3km、4区3km、5区5kmの合計21.0975kmだ。

昨年まで男子は3区、女子は5区に留学生を起用するケースが多かった。直近10年間の全国高校駅伝で男子は8回、女子は4回、留学生を擁するチームが優勝している。そして今回の“規定変更”は女子の大会の影響が大きいのかもしれない。

強烈だったのが、2020年の全国高校女子駅伝、最終5区の“大逆転劇”だ。

トップと42秒差の8位でスタートした世羅高(広島)のテレシア・ムッソリーニが爆走。従来の区間記録(15分04秒)を大幅に塗り替える14分37秒で駆け抜けて、前を走る7つの高校をごぼう抜きして、一気にトップを奪ったのだ。

このタイムは区間8位の選手と比べて1分49秒、過去の大会に出ていた日本人最高記録(15分26秒)と比べても49秒速かった。

当時のレースを現地で取材した筆者は、留学生を抱えるチームのある監督からこんな言葉を聞いた。

「14分37秒で走るのはまったく想像していませんでした。14分台は想定していましたが、ここまでは異常ですよ。私は(留学生の)区間制限を提唱している人間ですけど、もっと本格的に考えていかないといけないのかな、と。留学生がいるチームの人間でも、もどかしさを感じていますから」

昨年の全国高校女子駅伝でも最終5区のケニア人留学生が快走した。

神村学園高(鹿児島)がゴール直前に1分20秒差をひっくり返して、5年ぶりの優勝。惜敗した仙台育英高の日本人選手が号泣する様子は“残酷シーン”としてネット上で話題になった(※なお仙台育英高も2区に留学生を起用して区間賞を獲得している)

その記事のコメント欄には、「抜かされた日本人選手が可哀想だ」という声が強かった。なかには生中継していたNHKに「留学生の起用」に苦情を言う視聴者もいたようだ。

今回、男女とも「3km区間」に限定されれば、レース全体がひっくり返るような事態は起きないだろう。しかし、そんな外国人留学生イジメのようなことをして解決する問題なのだろうか。

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新ルールについて、日本陸連や高体連などで構成される全国高校駅伝大会実行委員会は、「ジュニア期のスピード育成を鑑みて、留学生の特性の1つであるスピードを最短区間で発揮してもらい、そこに挑む日本人高校生のスピード向上も期待したい」と説明しているが、これはちょっと苦しい言い訳だ。

また同実行委員会は、「留学生が高校駅伝への出場機会や部活動を含めた教育の機会を奪われることはないと考えている」ようだが、どう見ても今後は留学生の出場機会は減っていくだろう。

区間トップの留学生と日本人上位選手を比べると、男子の8km区間なら30~90秒ほど、女子の5km区間なら50~100秒ほどの差があった。しかし、留学生の起用が3km区間に限定されると男子で15~30秒ほど、女子も20~40秒ほどのアドバンテージしか奪うことができない。

学校側が負担しているケニア人留学生費用(授業料、生活費、渡航費、選手の仲介料など)を考えると、費用対効果は明らかに悪くなることが予想される。

そうなると留学生を招く学校は減り、日本の高校にやってくる留学生も減少する可能性もある。仮に全参加チームが“純ジャパ”になれば、日本人選手のレベルダウンにもつながりかねない。なぜなら今、長距離界を牽引している佐藤悠基(SGホールディングス)、田澤廉(トヨタ自動車)、佐藤圭汰(駒澤大学)らは高校時代からケニア人留学生に刺激を受け、彼らに挑むことで成長したからだ。今後はそういう機会が失われてしまうのだ。