法改正はあったが、被害者救済には覚束ない

一方、ネット上の誹謗中傷の削除について大手SNS事業者に迅速な対応と運用の透明化を義務づける「改正プロバイダー責任制限法」(5月10日成立)は、詳細を総務省令で定めて、公布から1年以内に施行する。規制対象に想定しているのは、SNSの雄であるXやメタだ。

ネット上には誹謗中傷、名誉毀損、著作権や肖像権を侵害する情報が蔓延し、深刻な社会問題となっている。直近では、前澤友作氏や堀江貴文氏ら著名人になりすまして投資などを薦める不正広告のような新しい問題も発生した。だが、これまで投稿の削除はSNS事業者の自主的判断に委ねられていたため、なかなかネット上から削除できず被害が増幅する状況が続いていた。

今回の改正は、投稿の削除に関して、初めて法的な規定を整備したもの。大手SNS事業者に対し、削除基準や手続きの明示、対応窓口の設置などを義務づけ、削除に応じるかどうかを1週間程度で判断するよう求める。対応が不十分とみなせば勧告・命令を出し、従わない場合は最大1億円の罰金を科す。

これで、被害者の早期救済へ一歩前進したとはいえる。

しかし、表現の自由との絡みに配慮して、誹謗中傷の判断基準は示さず、削除を義務づけるところまでは踏み込まなかった。このため、「一刻も早く投稿を削除してほしい」と願う被害者の要望をどこまで汲み取れるかは見通せない。もとより、被害を著しく減らすためには、この程度の対策では覚束ないだろう。

米国政府でさえGAFAと全面対決している

デジタル社会の健全な発展のために巨大ITの規制強化は世界的な潮流となっており、スマホ新法など一連の規制策の導入で、遅ればせながら日本も加わることになる。

だが、欧州連合(EU)は、はるか先を行っている。

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個人データをメシの種にする巨大ITに対し、18年に個人データを強く保護する「一般データ保護規則(GDPR)」を施行し、世界中を驚かせた。さらに22年には、スマホ新法の手本となった「デジタル市場法(DMA)」と、違法コンテンツの排除や偽情報の拡散防止を義務づける「デジタルサービス法(DSA)」を制定した。

巨大ITのおひざ元の米国でさえ、司法省が3月、グーグル、メタ、アマゾンに続いて、反トラスト法(独占禁止法)違反の疑いでアップルを提訴。司法の場で、「GAFA」と全面対決する構図になった。

規制を総務省に任せるだけでいいはずがない

翻って、日本の規制強化策をみてみると、その及び腰が浮き彫りになるばかり。

「DMA」は、スマホOSはもとより、広告やSNS、ネット通販など巨大ITのビジネスモデル全体を規制しており、違反すれば世界売上高の10%の制裁金を科す。たとえば、アップルの場合、2023年9月期の通期売上高は3832億ドル(1ドル=155円として約60兆円)なので、制裁金は383億ドル(約6兆円)の巨額になる。