これに対し、スマホ新法による課徴金は、アップルの日本市場の売上高約1.6兆円(2021年)のうち「アップストア」での手数料を30%とすると課徴金の対象は約4800億円だから、単純計算で約1000億円にしかならない。
規制対象をスマホのアプリ市場に限定した新法は、規模・内容において「DMA」に比ぶべくもないのだ。
グーグルに対する行政処分も、「改正プロバイダー責任制限法」も、きわめて限定的な対症療法でしかない。
しかも、スマホ新法の所管は公取委、「改正プロバイダー責任制限法」は総務省で、タテ割り行政そのもの。巨大ITと対峙するべく政府の強力な司令塔は見えてこない。
「もっと広範な規制が必要」との声が聞こえてくるが、巨大ITの反発も激しくなっており、EUのような包括的な法整備には慎重に見える。もとより、米国のマネをできるはずもない。
「なぜ規制をするのか」という哲学が必要
EUが真剣勝負で規制を強化する背景には、デジタル市場を席巻する巨大ITのビジネス優先主義から、民主主義を守ろうとする使命感と危機感があるように見受けられる。手を拱いていれば、公正な取り引きが歪められ、個人データが濫用され、偽情報の拡散が進んでしまいかねないからだ。
デジタル市場は、もはや市場競争による規律が働きにくくなっている。巨大ITと伍してユーザーの利益を守るためには、「なぜ規制をするのか」という日本独自の確固たる哲学が求められるのではないだろうか。
表現の自由は絶対的に守らなければならない基本的人権だが、現実に被害に苦しめられている多くの人たちを放置しておいていいはずがない。時限的な措置でもいいから、巨大ITを強力に規制する仕組みを用意しなければならない。