古谷一之・公取委員長は「ユーザーの選択肢が広がることが大事だ。寡占状態でユーザーやアプリ事業者の選択が閉ざされれば、イノベーションが起きなくなる恐れがある。競争環境を整備できるような法律にしたい」と意気込むのだが……。

検索連動型広告めぐりグーグルに初の行政処分

その公取委が4月、グーグルに対し、初めて行政処分を行った。

グーグルが、旧ヤフー(現LINEヤフー)のネット広告の配信をめぐり、優越的な地位を利用して強烈な圧力をかけていたというのである。

公取委によれば、グーグルは2010年、競合関係にある旧ヤフーに検索エンジンなどの基盤技術を供与し、ユーザーが検索した内容に関連した広告を配信する「検索連動型広告」システムも提供することになった。グーグルの市場支配力の増大が懸念されたが、公取委はいったん了承した。

当初は共存関係にあったが、グーグルは14年11月、旧ヤフーに対し、外部のスマホ向けサイトに検索連動型広告の配信をしないよう要求。旧ヤフーは受け入れて、15年9月以降、広告配信をストップした。

検索連動型広告の国内市場はグーグルが7~8割を占め、旧ヤフーが残りを埋めるという寡占状態にあるため、公取委は、グーグルの要求は独禁法が禁じる不公正な取り引きに当たるとみて22年に調査を開始した。グーグルが市場を独占して広告費を自在に設定できるようになれば、広告費が上昇し、ひいては商品やサービス価格が上昇し、ユーザーが不利益を被りかねないからだ。

すると直後に、グーグルが態度を一変させ、旧ヤフーは7年ぶりに広告配信を再開できるようになったという。

スマホを使用する人たち
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実質的には「おとがめなし」

今回の行政処分は最近、独禁法に導入された「確約手続き制度」という手法が使われた。公正競争のゆがみを迅速に是正するのが狙いで、違反行為を自主的に取り止め再発防止を確約する「改善計画」を提出し、認めれられれば排除措置命令や課徴金納付命令は免れるという仕組みだ。わかりにくいが、公取委による改善計画の認定そのものが、行政処分となる。

だが、変化の激しいデジタル分野では、市場の構図がいったん固まると事後的に是正するのは至難の業だ。グーグルのゴリ押しが始まってから7年以上も経った時点での行政処分は、いかにも遅い。しかも、グーグルが自らまとめた改善計画を追認して一件落着となったわけで、実質的には「おとがめなし」といえる。

結果的に、グーグルと旧ヤフーの立ち位置は元に戻ったに過ぎず、「検索連動型広告」事業におけるグーグルの市場支配力は当時よりはるかに増しているようにみえる。検索分野ではグーグルに対抗できる事業者は見当たらず、グーグルにしてみれば行政処分を受けても痛くも痒くもないのではないだろうか。