新法の最大の特徴は、独禁法が違反した行為を取り締まる「事後規制」であるのに対し、前もって禁止事項を定める「事前規制」を採用した点にある。

「事後規制」は、問題行為を特定して処分するまでに時間がかかり、日進月歩のデジタル分野では効果的な措置が取れないことが指摘されていた。「事前規制」は禁止行為に違反すれば迅速に処分することができるため、「競争政策の番人」である公取委は強力な「武器」を手に入れることになる。

新法は、「基本ソフト(OS)」「アプリストア」「ブラウザー」「検索エンジン」を特定ソフトウェアと定義。そのうえで、禁止事項として

・他社のアプリストアの参入を妨げる
・自社以外の課金・決済システムを利用できないようにする
・検索結果に自社サービスを優先的に表示する
・取得したデータを競合サービスの提供に利用する

などを列挙している。

悲鳴を上げる「デジタル小作人」

国内のスマホ市場は、OSにアップルの「iOS」とグーグルの「アンドロイド」を搭載するモデルでほぼ占められている。

また、アプリストアも、アップルの「AppStore(アップストア)」とグーグルの「Google Play(グーグルプレイ)」による寡占状態で、他のストアが入り込む余地はほとんどない。

App StoreやFacebookのアプリが入っているスマホ
写真=iStock.com/DKart
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このため、たとえば、iPhone(アイフォーン)のユーザーは、「アップストア」からしかアプリを入手できず、他のストアにより安いアプリがあっても購入することができない。

一方、「アップストア」でアプリを提供する事業者は、売上高の最大30%もの「アップル税」とも呼ばれる手数料を支払うことを強いられている。拒否すれば「アップストア」から締め出されるので、言われるがまま。「グーグルプレイ」も、ほぼ同様だ。

巨大ITに生殺与奪の権を握られている様は「デジタル小作人」と蔑称される。アプリ事業者からは「スマホでアプリを提供できなければ、デジタル空間での存在を抹殺されるのと同じ」との悲鳴が上がる。

現行の手数料が妥当かどうか。巨大ITは、アプリの安全性をチェックし情報流出のリスクを避けるために必要というが、その実態は外部からはうかがいしれない。

高額な手数料は、当然のことながら、ユーザーの利用料にハネ返る。

イノベーションが起きなくなる恐れがある

「スマホ新法」は、スマホ市場を巨大ITから開放する新たな仕組みを導入したようにみえる。

だが、実は、巨大ITの猛反発を受けた妥協の産物でもある。アップルは「アプリストアを開放すれば、アイフォーンの安全性を損ないかねない」と主張、「安全」を前面に打ち出して抗戦した。

結局、「指定事業者」が、セキュリティー・プライバシー・青少年保護などを理由とする場合には、新たに参入するアプリストアを審査できる例外規定を認めてしまった。つまり、アップルやグーグルが新規参入者を「品定め」できるようにしてしまったのである。これでは、せっかくの新法も骨抜きになりかねない。