Jリーグが世界に追いつくための道標
当時のJリーグが目指していたのは、実績よりも放映権の増額。その意味で、DAZNが提示した条件は、確かに魅力的だった。
しかし、それとは別の期待感も村井たちにはあった。
それは、DAZNであれば「Jリーグが世界に追いつくための道標になるかもしれない」というものであった。
実績で言えば、スカパー!は申し分ないし、スカパー!を選べば10年間にわたってJリーグを支えてくれた恩義を反故にすることもない。放映権料の増額は限定的となるが、外資との契約はリスクが高そうだから、これまでどおりの粛々とした運営を続けていこう――。
ベンチャーマインドにあふれていた
以前のJリーグであれば、このような決着を見た可能性は高かっただろう。
わが国のスポーツ団体は保守的かつ排他的で、しかもベンチャー気質に乏しい。革新的に見えるJリーグでさえ、村井がチェアマンに就任する以前は、そうした傾向を色濃く残していた。
しかし2016年のJリーグには、海外とのハードな交渉経験を持つ村井、そして「タフネゴシエーター」の中西がいた。しかも、両者ともベンチャーマインドにあふれ、視聴環境の未来像も共有できていた。
こうした条件が揃っていたからこそ、これまでJリーグが(というよりも日本スポーツ界が)経験したことのない、外資企業との大規模な放映権交渉を決断できたのである。