Jリーグの2021年度の営業収益は1240億円で、8年で2倍以上に増えている。2014年にチェアマンに就任し、4期8年務めた村井満さんは、さまざまな組織改革を行ったが、その一つが本社のフリーアドレス制だった。どんな効果があったのか。ジャーナリストの大西康之さんが聞いた――。(第24回)
2014年にチェアマンに就任した村井満さん。任期最終年の2021年には毎週1枚の色紙を用意して、朝礼を開いた。
撮影=奥谷仁
2014年にチェアマンに就任した村井満さん。任期最終年の2021年には毎週1枚の色紙を用意して、朝礼を開いた。

書類が積み上がっている机を避けて通るような状況

前回からつづく)

――前回は6つあったJリーグの事業子会社を2つにする構造改革の話を伺いました。これだけ大きく構造を変えると、社員の働き方も大きく変わるわけですよね。

【村井】まずはオフィスの話をしましょうか。私がチェアマンになった時、Jリーグは文京区本郷にある日本サッカー協会ビル(通称JFAハウス)の8階と9階に入っていて、そこが事業子会社ごとに6つの部屋に分かれていました。

――もともと大阪本社の三洋電機が首都圏の営業拠点として建てたビルですね。昔、電機業界を担当していたのでよく行きました。JFAが買い取ったのが2003年ですね。三洋電機はあの頃から業績が悪化し始めて、2009年にパナソニックの子会社になります。バブルが崩壊する前に建て始め1993年に竣工しゅんこうしていますから、しっかりした作りのいいビルですよね。

【村井】昔ながらのオフィスレイアウトで、書類が積み上げられた机を避けるように、従業員が周囲に寄り集まって朝礼を開いたりしていました。席に戻っても机には書類が座っているといった具合です。

一方でチェアマン室は広々としていて、お客さんがいないときはその隅っこでポツンと仕事をするわけです。チェアマン室の横には少し小ぶりな専務室もありまして。そんな立派な部屋ですから、社員からするとドアが重いというか、なかなかに入りにくい。

役員部屋にいるだけでは、社内の様子はわからない

【村井】こんな広い部屋に一人でいても仕方ないな、と思ったので、チェアマン室を、4人の役員が使う役員大部屋方式にしました。いつもチェアマンと役員が顔を合わせていられるので「ここで4人が話したら役員会だね」などと冗談を言い合っていたのですが、社員にしてみるとますます恐ろしい部屋になってしまったようで、誰も寄りつかなくなりました。

――そこで思い切って2017年からフリーアドレス制の導入に踏み切るわけですね。リクルートやリクルート・エージェント時代にフリーアドレスは経験されていたのですか。

【連載】「Jの金言」はこちら
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【村井】していません。私にとっても初めての試みでした。しかし前回お話ししたように、6つの事業会社という、それぞれ閉じた組織の中で仕事をしていた状況を変え、Jリーグの社員200人がワン・チームとして動くようにするためには、役員室をなくし、フリーアドレス制を導入するのが一番だと判断したのです。

自分の席が決まっていて、朝一番でそこに座ると、人間はどうしてもほっこりしてしまいます。空いた場所を見つけてパソコンを開き「さあ、今日は誰とどんな仕事をするんだろうな」と考えたほうが、ワクワクするし緊張感もありますよね。