長野県は「まだまだもったいない」

長野県について、青木さんは「土壌も豊かですし、良い立地にもありながら、PRが不足していると感じています」と話す。今回のシードルでは、その長野が誇るリンゴの魅力を発信することを狙う。

シードルそのものだけでなく、地元食材との「マリアージュ」にも期待する。そもそもシードルは、フランスの中でもブルターニュやノルマンディーといった地方で愛されており、ガレットやチーズといった、現地の食べ物と一緒に楽しむことが多いという。

青木さんは今回のシードルも、長野のフルーツや信州牛など、地元の食材と合わせてもらいたいと考えている。

「パリで抹茶を使ったお菓子を広めたことがあります。成功したのは、『和菓子』として勝負したからでも、当時のトレンドに合わせたからでもなく、フランスの人が食べてきた『エクレア』に合わせたからだと思うんです。シードルを長野の食べ物と組み合わせて『こんな楽しみ方があったのか!』という驚きを地元の人に感じてもらいたいと考えています」

撮影=高須力
パティスリーサダハルアオキで販売されているケーキ、「アンディビジュアル」。「見た目で感動して、食べて納得する」を謳う。

「できるだけ出荷できないリンゴをください」

長野県の魅力をアピールするだけでなく、フードロス問題への寄与も狙っている。シードルに使うリンゴは、生食用としては出荷できないような形の悪いものでも問題ない。そもそも日ごろから青木さんは生産者に対して「できるだけ出荷できないものをください」と伝えている。なぜなら、「そっちのほうが熟していておいしいから」(青木さん)。

「何においても重要なのは『味』です。もちろんブランディングなども重要ですが、私たち職人は、いかに食材をおいしく作れるか、組み合わせられるか。この点を常に考えています」

長野県には、リンゴ以外にも魅力的な食材がいくつもある。その代表例が東御市のクルミ。同市は日本一のクルミ産地で「信濃くるみ」のブランドで知られる。パリの店舗でも信濃クルミを使った商品を販売している。

撮影=高須力
「長野の果物がおいしいのは、アルプス由来のミネラルで土地が豊富だからでしょうね」(青木さん)