菓子職人が「シードル」を手掛けたワケ

その後、青木さんと長野県との縁はどんどんと深まっていく。2022年には、パティスリー・サダハル・アオキ・パリの運営元である株式会社SAJと長野県で連携協定を締結。地元事業者との協業による商品開発、地域ブランドの育成などを含む内容の協定だ。

直近では、県内産のリンゴを使ったシードル「サダハルアオキ SAYA2023」(2600円)も発売する。企画から発売まで足掛け3年ほどを要した肝いりの新商品だ。

「SAYA」は娘の名前からとったという
撮影=高須力
「SAYA」は娘の名前からとったという

シードルはリンゴを原料にした酒で、日本ではまだそこまで認知度や市場が大きくないものの、フランスでは日常的に親しまれている飲み物で、青木さん自身もよく嗜むという。近年は米国で「ハードサイダー」がブームになっていて、国内の商品も増え始めている。そんな中で、長野県に足を運んだ際にリンゴ生産者が販売しているシードルを飲み、もっと伸びしろがあるのではと考えたのが開発のきっかけだ。

「シードルは甘口と辛口の2つに分けられます。日本では焼酎や日本酒で辛口を好む人も多く、シードルもドライのものが多い。ただ、私はもっと甘いリンゴを使って、甘口だけれどパンチの効いたものがあってもいいんじゃないかと考えました」

洋菓子にも肉料理にもあう味わい

シードルの開発に当たっては、もともとコンフィチュール(ジャム)で使っていたリンゴで試作。しかし、発色や味などが思い描いたものにならず、別のリンゴを探していたところ、長野県で試験生産していた「キルトピンク」という品種に出会った。

キルトピンクを使ってシードルを作ったところ、キレイな発色に。もちろん色だけでなく「僕が手掛けるものであれば、味はいつでも正解にしたい」と語る青木さんも納得の味わいを実現できた。具体的には、パンチがありながらもスッキリとした甘みとほどよい渋みという味を両立したシードルに仕上がっている。

シードルの製造は京都府の丹波ワインに委託している。同社について青木さんは「京都の山の中にあるワイナリーで、OEM製造に対するチャレンジ精神なども持っていらっしゃる」と評価しており、開発工程でもさまざまなオーダーを出しながら、ともにブラッシュアップし、納得のいく完成形までこぎつけた。

青木さんの日本での挑戦は、ここパティスリーサダハルアオキ有楽町店から始まった
撮影=高須力
青木さんの日本での挑戦は、ここ「パティスリー・サダハル・アオキ・パリ」丸の内店から始まった