公務と仕事の両立

大学ご卒業に際しての宮内記者会の質問への文書回答の締めくくりでは、以下のように述べておられた。

「皇族としての務めを果たしながら、社会人としての自覚と責任を持って、少しでも社会のお役に立てるよう、公務と仕事の両立に努めていきたいと思っております」

普通なら、仕事と個人的な趣味や娯楽などとのバランス、「両立」を図るのではないだろうか。ところが、敬宮殿下は「公務と仕事の両立に努めていきたい」とおっしゃっている。いかに皇族とはいえ、あまりにも「無私」なご決意ではあるまいか。

実際に4月10日は、午前に明治神宮へのご参拝という皇族としての“お務め”を果たされた上で、午後には日赤の“お仕事”に駆けつけておられた。

「困難な道を歩む方々に心を寄せる」

敬宮殿下は日赤ご就職に際しての文書回答も公表されている。そこには、殿下ご自身の「皇室」観も率直に表明されていた。

「私は、天皇皇后両陛下を始め、皇室の皆様が、国民に寄り添われながら御公務に取り組んでいらっしゃるお姿をこれまでおそばで拝見しながら、皇室の役目の基本は『国民と苦楽を共にしながら務めを果たす』ことであり、それはすなわち『困難な道を歩まれている方々に心を寄せる』ことでもあると認識するに至りました」

天皇陛下が上皇陛下から受け継がれた天皇・皇室の「役目」の核心が、端的に示されている。しかも、それだけにとどまらず、「困難な道を歩まれている方々に心を寄せる」というさらに踏み込んだ、殿下が自らつかみ取られた“核心中の核心”ともいうべきポイントが、独自の表現で述べられていた。

まだお若いご年齢で、自らの問題意識に即して、ここまで皇室が果たすべき役割の本質に迫っておられる事実に、驚く。まさに天皇・皇后両陛下のもとにお生まれになり、天皇・皇后両陛下のもとで育ってこられた直系の皇女、敬宮殿下ならではの深いご洞察と言うべきだろうか。そこには、平成時代にいわゆる雅子妃バッシングが苛酷を極め、ご家族が「困難な道を歩ま」ざるをえなかった頃のご自身のお辛いご経験も、しっかりと踏まえられているだろう。

かつての上皇陛下のご発言

ところで、このご回答にある「国民と苦楽を共にしながら務めを果たす」というご表現は、上皇陛下が平成時代に天皇誕生日に際しての記者会見で述べておられたご発言を踏襲しておられる。

それは以下の通り。

「私の皇室に対する考え方は、天皇及び皇族は、国民と苦楽を共にすることに努め、国民の幸せを願いつつ務めを果たしていくことが、皇室の在り方として望ましいということであり、またこの在り方が皇室の伝統ではないかと考えているということです」(平成17年[2005年]12月19日

「国民と苦楽を共にする」と「務めを果たす」の2点が、ピッタリと重なる。ここで注目すべきなのは、この時の上皇陛下のご発言がどのような文脈で発せられたものだったか、ということだ。

写真=iStock.com/BrendanHunter
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