翌5日からは英語スピーチの練習に励み、週明けの8日午前には歴代駐米大使と面会し、午後に羽田空港から裕子夫人を連れ立って政府専用機でワシントンへ飛び立ったのだ。

小池百合子東京都知事(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

この8日に政局は動き出す。

まずは小池百合子東京都知事が衆院東京15区補選(4月16日告示・28日投開票)に擁立した作家の乙武洋匡氏が出馬会見を開いた。それ自体は予定された出来事だったが、想定外のことが起きた。乙武氏は小池知事と二連ポスターに囲まれて会見に臨んだが、小池知事が事実上支配している「ファーストの会」の公認ではなく、無所属で出馬すると表明したのだ。

裏金事件で自民党に逆風が吹き付ける最中の4月の衆院3補選(長崎3区、島根1区、東京15区)は、岸田首相の総裁再選への第一関門である。全敗すれば「岸田首相では選挙は戦えない」との声が党内で高まり、6月解散どころではなく、9月の総裁選不出馬・退陣に追い込まれていく。3補選に勝ち越したいし、最悪でも全敗は避けなければならない。

「岸田政権の命運を小池都知事に預けた」はずが…

裏金事件で起訴された安倍派の谷川弥一氏の議員辞職に伴う長崎3区で自民党は候補者擁立を早々に見送り、不戦敗を決めた。

旧統一教会問題やセクハラ疑惑で批判を浴びて衆院議長を退任した細田博之氏の死去に伴う島根1区は、細田氏が安倍派会長を務めていたことに加え、後継候補の元財務官僚の評判も悪く、立憲民主党元職に大きく後れを取っている。

そして柿沢未途氏が公選法違反事件で起訴され議員辞職したことに伴う東京15区も独自候補を擁立できる環境にない。そこで小池知事が擁立する「ファーストの会」の候補に相乗りし、小池人気にあやかって「1勝」を拾う虫の良い選挙戦略を描いていたのだった。「岸田政権の命運を小池知事に預けていた」(岸田派関係者)といっていい。

小池知事自身が東京15区補選に電撃出馬して国政復帰し、自民党に復党して9月の総裁選に出馬し、初の女性首相に挑むという観測も永田町に流れていた。

ライバル不在の政治状況をつくって総裁再選を狙う岸田首相にとって警戒すべき事態だったが、小池知事は自民党の萩生田光一都連会長らを通して自らは出馬せず、乙武氏を擁立する意向を内々に伝えてきたため、岸田首相は安堵していた。そこで自公与党で乙武氏を推薦し、3補選のうち1勝を確実にして、できれば2勝1敗、悪くても1勝2敗で乗り切ろうという算段だったのだ。