岸田首相の強みは「ポスト岸田がいないこと」
岸田首相の頼みの綱は、有力なポスト岸田の不在だ。
最大のライバルである茂木氏は麻生氏に同調し茂木派存続を表明していたが、小渕優子選対委員長ら離脱者が相次ぎ、ついには派閥解散へ追い込まれそうな気配である。二階氏が温めてきた小池擁立論は学歴詐称疑惑の再燃で潰れた。菅氏が前回総裁選で擁立した河野太郎デジタル担当相はマイナンバーカード問題で失速。小泉進次郎元環境相は父親の純一郎氏から「今は動くな」と止められている。菅氏は国民人気の高い石破茂元幹事長の擁立を検討してきたが、党内の支持は広がっていない。
一方、麻生氏は岸田派に所属していた上川陽子外相をポスト岸田にショーアップすることに成功した。茂木氏を嫌う岸田首相の意向を踏まえ、政治基盤のない上川外相を麻生・岸田・茂木3氏で担ぐ傀儡政権を想定したものだ。だが、岸田首相が退陣を受け入れるのか、茂木氏が総裁選出馬を諦めるのか、そして麻生氏を後見人とする上川外相への支持が本当に広がるのか、不確定要因は多い。
裏金事件を受けた派閥解消によって自民党議員の大半は無派閥となった。最大派閥・安倍派は消滅し、大幹事長だった二階氏も次期衆院選への不出馬を表明。派閥の引き締めは弱まり、岸田首相が相対的に強くなった側面は確かにある。
岸田首相は補選全敗を想定して6月解散をあきらめ、現総裁として人事権をちらつかせて党内を掌握し、総裁再選を果たす戦略に転じたとみていいだろう。
選挙に勝てない、解散できない首相では再選は難しい
とはいえ、解散総選挙を先送りして9月を迎えた場合、総裁選は「選挙の顔」を決める戦いとなる。衆院任期は来年10月まで残り1年。来年夏には参院選も控えているからだ。
内閣支持率が回復しなければ、岸田首相がどんなに人事権で党内を引き締めたところで「新しい選挙の顔」を求める党内世論が高まる。岸田首相の総裁再選は相当に険しい道だ。
岸田首相の国賓待遇の訪米は、バイデン政権が主導したウクライナ支援に同調して巨額支援を表明し、米国製ミサイル・トマホークも大量購入した「ご褒美」の側面もあった。岸田首相を歓待したバイデン大統領は高齢不安が強まり、11月の大統領選にむけてトランプ氏にリードを許し、再選へ黄信号が灯っている。
後世振り返れば、岸田夫妻が満喫した国賓待遇の訪米は「卒業旅行だった」と評価されるかもしれない。ひょっとして首相自身、「これが卒業旅行になるかも」という思いがよぎり、ワシントンでの大はしゃぎになったのではないかと私は想像している。