元側近は弁護士の小島敏郎氏。東大法学部を卒業して環境庁に入庁した元キャリア官僚だ。小池知事就任後は東京都の特別顧問や都民ファースト事務総長も務めた側近中の側近だった人物である。
元側近の爆弾告発は、学歴詐称疑惑を再燃させた。小池知事が補選出馬を見送ったのも、代わりに擁立した乙武氏を公認しなかったのも、これが本当の理由であろうと永田町の多くが受け止めた。小池知事が疑惑再燃で逃げ出したというわけだ。
衆院補選は長崎3区、東京15区で不戦敗に
乙武氏は公明党から推薦を得られない事態を受けて、裏金事件で批判を浴びる自民党だけから推薦を受けるのは逆効果と判断し「自民党から推薦を受ける予定はない」と表明。自公与党の組織票を固める選挙戦略から、無党派層に訴える選挙戦略に急遽転じたが、東京15区の街頭に立つと小池知事の学歴詐称疑惑でヤジを浴びている。戦線崩壊の様相だ。
事態の急変を受けて自民党も乙武氏推薦の方針を撤回した。留守役を任されている麻生氏や茂木氏が主導して決定したのだ。もちろんワシントンへ報告はしたものの、晩餐会や米議会でのスピーチに追われる岸田首相にとって国内政局は二の次だったに違いない。
乙武氏の推薦見送りにより、自民党は衆院3補選のうち2補選の不戦敗が確定した。岸田政権の命運を左右する重大決定は、首相不在の間に下されたのだ。首相の帰国は補選告示2日前の14日。今更如何ともし難い状況だったのである。
岸田政権の「レームダック化」は避けられない
この時期の訪米日程を米側と最終調整したのは、麻生氏である。
当初は不人気の岸田首相の「卒業旅行」とするつもりでいた。国賓待遇の訪米を花道として退陣させ、茂木氏に政権を引き継がせ、自らはキングメーカーとして君臨し続ける政局を描いていた。ところが岸田首相は退陣を受け入れず、両者の関係は軋んだ。麻生氏もまた4月の3補選を全敗させることで6月解散を阻み、9月の岸田退陣の流れをつくる方が得策だと判断したのだろう。
公明党も、非主流派の菅氏や二階氏も、主流派の麻生氏や茂木氏も、「補選敗北による6月解散阻止」で利害は一致していた。小池知事の学歴詐称疑惑の再燃が東京15区補選からの撤退に格好の口実を与えたといっていい。
3補選の負け越しは決まった。残る島根1区も劣勢だ。補選全敗なら6月解散は困難となり、岸田政権はレームダック化する。9月退陣へ外堀は埋まった。
逆に立憲民主党は補選全勝で勢いづく可能性が高い。国会会期末に向け政治資金規正法の抜本改正を迫ってくる。政治資金パーティーの全面禁止など改正のハードルをどんどん上げてくるだろう。岸田首相が野党の要求を受け入れれば自民党内がまとまらず、自民党内に譲歩すれば与野党協議は決裂する。6月解散に踏み切れる状況にはなりそうにない。